京次郎のトレードマークといったら眉間の皺である。何でそうなったの?って、訊きたくなるぐらい凄い。いつ見ても皺が寄っているので試しに、人差し指で伸ばしてみたらグーで殴られた。女の子に何するの!!って、怒ったらお前は女じゃないのう、って言われたっけ?そのくせいつも若共々護ってくれたね。ヤクザの娘なんだからちょっとやそっとのことで怪我なんてしないのに、お前は女なんだから護るのは当然じゃ、って…矛盾してるよ。

京次郎が優しい人ってことは知ってたから彼を恐いと思ったことはない。惚れた弱みか、厳つい顔だって好きだった。けどね、一度でいいからその皺がとれたとこ見てみたいってずっと思ってたんだよ。





バシャン!!と、水溜りに足を突っ込むと跳ねた泥水が裾を汚した。張り付く前髪を払い除けながらとにかく走る。

魔死呂威組から電話があった。屋敷が惨事になっている、京次郎が何処にもいない、と。携帯放り投げて家を飛び出した。直感だった、脇目もふらずにそこへ向う。

墓地に入ったあたりから石畳に血の道が出来ている。それがこの先にいるであろう彼がどうなっているかを予期させた。そんなことはないと頭を振るが、心の何処かで覚悟は出来ていた。

目的のお墓が見えた時、無意識の内に走るスピードを落としていた。最終的にゆっくりとした歩みで、この雨の中突っ立っている男の人の横を通り過ぎて立ち止まる。

「やっぱり…ここにいた」

オジキの墓に寄りかかって眠る京次郎は眉間の皺も消えて、満ち足りたように微笑んでいる。京次郎の横へ半ば倒れるように座って、頬へと手を伸ばしたが寸のところで止めた。触れてしまったらこの穏やかな表情が崩れてしまいそうな気がしたから。そのまま下降させて羽織の袖口を皺になるぐらい強く握る。僅かに触れた手は冷たくなっていた。

「眉間の皺とれてるよ」

おまけに髪も垂れ下がっているのでまるで別人のようだ。こうして見ると普通の青年で、なんだか少し可笑しかった。やっぱ、京次郎がそんな風に笑うのはオジキの傍なんだね。いつも言ってたもんね。オジキの役に立ちたい、オジキの大切なものを護りたい………それが口癖だった。

京次郎、あんたは否定するかもしれないけど立派に狛犬の役目を果たしたよ。今、幸せなんだよね?だからそんな風に笑ってるんだよね?だとしたら私は泣くべきじゃないけど、ごめんね。どうしても笑えそうにないよ。でもね、泣いて泣いて泣いて泣いて涙が枯れてそうしたらきっと笑える。

あんたのように 笑うから(お願い今だけは 泣かせて)

「京次郎………」



何度も、何度も躊躇いながらも首に腕を回し、肩に顔を埋める。漸く冷たくなった京次郎の身体を抱きしめた。







(雨がやんだら笑うから)










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お題、選択式御題様より
「泣いて泣いて泣いて泣いて涙が枯れてそうしたらきっと笑える
きみのように 笑うから(お願い今だけは 泣かせて)」使用




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