運命なんてものは偶然が重なり合って出来たものだ。たまたま、真弘が守護五家のうちの一つ鴉取家に生まれ、彼が家を継いでから封印の力が解ける一歩手前まで弱まり、世界は危機的状況に陥った。玉依姫がこのまま覚醒しなければ盟約の元、ヤタガラスの血を引くという理由だけで彼は犠牲になる。どれか、このうちのどれか一つでも欠けていたなら、真弘はきっと………





何もない、いつも通りの日。そんな日の帰り道。細い畦道に伸びる影は遠からず近からずを保っていた。赤蜻蛉がスッーと二人の間を通り抜けた時に立ち止まれば、距離が広がっていく。気づいた真弘が振り向いて早く来いよ、と急かすが私は動かない。いつもならさっさと置いてっちゃうくせに、今日に限って引き返してきた。わざわざ顔を覗き込むように身体を屈めてからどうした?と、訊いてくる。それでも私は唇を噛み締めたまま、黙っていた。目線を制服の裾から僅かに覗く包帯に注ぐ。驚異的な回復力を上回るほどの怪我を負った真弘。ロゴスや典薬寮が現れるのも、カミサマが日に日に凶暴化していくのも、鬼切丸が世界を蝕もうとしている何よりの証拠だ。

「真弘」

「何だよ」

「ここに、いる?」

「はぁ?何言ってんだ。この超絶格好いい鴉取真弘様が名前には見えないのか」

戯れ程度に、頭を殴られる。こんなのは日常茶飯事なのだけど、最近は仕草や言葉で誤魔化されているような気がしてならない。

今は傍にいてもいずれはいなくなってしまう。ババ様は一度回り始めた歯車は止まらないと諭すけど、だからといって真弘が世界を守るために犠牲になるのは、納得出来ない。鬼切丸が無ければあるいは玉依姫が覚醒してさえいれば………どうして、どれもこれも叶わないのだろう。世界や鬼切丸、玉依姫さえ憎くくてたまらない。

「馬鹿、そんな顔すんなよ」

頑なな私に困ったと言わんばかりに深く溜息を吐いた。真引は己の運命を受け入れた頃から何もかも諦めたかのように笑うことがある。私はそれが嫌いだというのに、今もそんな微笑みを浮かべている。

「俺は自分のことはすっぱりと諦めてんだ。ここで逃げ出したらみんな死んじまうだろ?そんなのは嫌だ。だから、覚悟は決めてる。だけど、一つだけ。勝ち気でお転婆で…その実、意外と脆い幼馴染みは俺がいなくなったらどうなるんだろう、って。それだけが気がかりなんだよ」

ほとんど変わらない身長のくせに男らしく大きい手が頬を撫でる。もうすぐこの温もりが消えてしまうのかと思うと、ただ悲しかった。



本当に恨んでいるのは世界でも鬼切丸でも玉依姫でもなく、何も出来ない無力な自分だ。





止まらない歯車に何度祈りを捧げたのだろう、叶わないと知りながら


神様、お願いです。彼を連れてかないで。










--------------------
お題、Arcadia.様より
切ない君へ長文10題 2
「止まらない歯車に何度祈りを捧げたのだろう、叶わないと知りながら」使用




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -