朽木ルキア死刑執行当日

俄かに瀞霊挺は騒ついていた。いや、旅禍が来てから静かだったことなんてなかったが、今日は一段と騒がしい。巨大な霊圧を感じる。それだけで戦いが始まっていることがわかった。

謹慎のため自室に籠もりっきりな涙花も、見張りの隊士から教えてもらい更木が旅禍に負けたとことを知っている。

更木に勝ったのは………予想は出来るが確証は得られない。今の状況だって、戦いが始まっているということしかわからない。このまま、ここで全てが終わるのを待つしかないのか。それでいいのだろうか。

「………」

涙花は静かに立ち上がると障子を開いた。

「すいません」

「はい?どうしまっ…」

言い終わる前に隊士の身体は床へと崩れた。










涙花の足は迷うこと無く双極の丘へと向かっている。途中で見かけた建物は崩れ、道には大きな穴が空いていた。戦いは激化してるようだ。

一度ならず二度までも命令違反すればどうなるかわかっている。良くて席官落ち、悪ければ死神をやめさせられるだろう。わかっていながらも涙花は行動を起こした。

彼女はこの騒動の結末を見届けたかった。朽木女史が処刑されたならそれはそれでいい。ただ………


考えるだけ無駄だとそれ以上の思案をやめ、代わりに足を速めた。










ここが双極の丘なのは間違いない。だが、涙花には何が起きているか理解できなかった。奥の方にはルキアを捕まえている市丸、その横には東仙がいる。それだけでも疑問が渦巻くのに、さらに涙花を混乱させるのは市丸達より手前にいる二人の存在。

一人は血まみれになって倒れている恋次だ。まったく動かないから死んでいるように見えるが、辛うじて呼吸をしている。



もう一人は血溜りに沈んでいる幼馴染み。



「い…一護!?」

誰だか理解した瞬間、走りだしていた。





「次から次へとよく出てくるね」





しかし、それは突然現われた影によって阻止される。時が止まった。気配がしなかったとかそんな次元ではない。彼はもうここには存在しないはずの人だ。

「藍染隊長!!!」

涙花の目の前で穏やかな微笑みを浮かべているのは、死んだはずの藍染だった。

「どうして…」

本来ならご無事だったんですね、と喜ぶべきだろう。だが、何かがおかしい。違和感と恐怖を感じた身体が固まる。思考だけが今の状況を把握しようとフル活動をする。

この目で見たのだ。隊長は胸を刺されて死んでいたのを。けど、今こうして生きている。だったらあれは何だ………もしかしてダミー…?ならどうして、どうしてダミーまで使って死んだふりを装った。

混乱していた思考が違う可能性を導きだす。

「まさかっ!!!」

「ご名答。君は賢いね」

行き着いてしまった最悪の答えを肯定するかのように藍染が笑う。

藍染は皆を欺くために死んだふりをした。どうしてそんな事をしたのか、おそらくは裏切るため。

「どうして裏切ったのですか!!」

「裏切る?それは間違えだよ。僕は最初から君達を仲間だなんて思っていない」

おおよそ藍染だとは思えないような言葉ばかりが聞こえてくる。穏やかな微笑みも今では不気味なものにしか見えない。これは本当に藍染だろうか?

涙花は雛森のことを思い出した。彼女は日番谷隊長の馴染みということもあり面識があった。人当たりも良く優しい彼女は藍染隊長を誰よりも慕っていた。

「雛森副隊長のことは…」

震えそうになる声を必死に押さえる。雛森の名をだしたら僅かだが藍染が反応を示した。

「何とも思わないのですか?」

藍染の中にあるはずの一欠けらの良心に賭けてみる。彼だって雛森副隊長を信頼して可愛がっていたのだから、もしかしたら、と………信じたかった。





「くだらない」





返ってきた答えは冷たいものだった。

「くだらない…?」

「そうだよ。憧れしかもたない者が僕を理解することはできない。僕に必要なのは有能で僕を理解してくれる部下だけさ」

信じられなかった。信じたくなかった。これがあんなに優しかった藍染隊長だとは思いたくなかった。

不意に市丸が笑い声をあげる。

「何驚いてるん?驚くことなんてないんよ。ただ君が藍染隊長を理解しようとしなかった。それだけのことやで」





そこにきて涙花は悟る。今まで信じてた藍染惣右介は嘘だったということに。







End






>>あとがき
中途半端ですが長くなりそうだったので分けました。次回がかなり短くなりそうな予感です。



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