「いったい何段あるんだよ、疲れた!!」
「はひぃ〜」
「文句言うなよ岩鷲。花太郎は大丈夫か?」
時間感覚がなくなるほどの長い階段。登っても登っても頂上は見えてこない。
「一護、ちょ、ちょっと休憩しようぜ」
「馬鹿言うな!間に合わなくなる!!」
足が止まりそうになっている岩鷲を叱咤し、息も絶え絶えな花太郎を励ましながら一護は駆ける。どんどん短縮されていく刑の執行時間。今は一分一秒でも惜しいのに休憩なんてしてられない。ルキアを助けられなかったらここに来た意味がなくなる。
「止まれ」
「お!なんだ休憩するのか?って、ん?」
踊り場を突っ切ったところにある階段に死神がいた。この時間がない時に次から次へと出てきやがって、と内心舌打ちしながら一護は斬月の柄を握った。
「一護さん」
「下がってな」
言うか否か、一護は斬月を手に駆け出していた。死神は緩慢な動作で刀を抜き数歩前に出る。
ガキィン!!!
刀と刀が激突した。
「悪いがこんなところで手間取ってる暇はない!!すぐ終わせる!!」
「やれるものならやってみろ」
間をあけずに攻撃を繰り出すが軽く躱されてしまう。その割りには死神は攻撃してこない。
刀を交じあわせている最中に一護は違和感を感じた。違和感は明確な形にならず答えを導きだすまでに至らない。
一度大きく跳躍をして間合いをとる。改めて死神を見た。小柄な死神、刀を持って戦うなんて似合わない。
「この程度か旅禍…ならばこちらからいかせてもらおう」
言うか否か、死神は目前にいた。振り上げられた刀を咄嗟に斬月で受けとめる。力こそないが死神の攻撃スピードは早い。見切って避けるか防ぐかで精一杯なため、一護は攻撃に移れない。
鍔迫り合いに持ち込む。刀を挟んで間近にある死神の顔。不意に違和感の答えが導きだされた。この死神を見て懐かしさを感じているのだ。
懐かしさを感じるなんておかしな話だ。自分は死神など………
まさかと思う。こんな偶然あってたまるか、と。だけど、あってもおかしくはない。そうだ、よく見れば面影があるじゃないか。
「涙花…?」
囁いたはずの名前は思いの外、響いた。
「あぁ!そうだ十番隊第八席の弐道涙花さんだ!!」
花太郎によって肯定される。弐道涙花、死んだはずの幼馴染だった。
「嘘だろ」
一護の力が弛んだのを涙花は見逃さなかった。強引に押し返しよろけた瞬間、柄を思いっきり叩きつけた。一護は花太郎達がいる位置まで吹っ飛ばされる。
「一護さん!?」
「けほっ、……ぐっ」
「何を気を抜いている?私は中途半端な気持ちで倒せるほど弱くはないぞ!!!」
涙花が走りだす。一護はなんとか立ち上がると涙花の猛攻を防ぐ…防ぐだけ。一護から攻撃することはない。
「やめ、ろ!!やめろよ!涙花!!」
「黙れ!!」
「どうしてお前がっ!!」
「どうして?決まってるだろ!!」
「お前が旅禍で私が死神だからだ!!」
涙花の刀が一護の腕を捉えた。血が吹き出したが傷は浅い。互いに距離をとる。肩で息をする涙花、傷を負った腕を庇いながら呆然とする一護。
目に見えぬ距離は取り返しのつかないところまで広がっていた。
「仕様がないだろ。あの時からすべてが変わってしまった」
死神になった時から…いや、死んだ時からだ。あの瞬間から二人は違う道を歩まねばならなくなった。だから、もう二度と会うことはないと思っていた。それなのに彼は再び自分の前に姿を現した…敵として。
「私は死神でお前は旅禍だ。生きる世界が違う………だから!」
戦わなければならない。無意識に引きずっていた過去を断ち切り、この世界で胸を張って生きていくためにも、
「私のこの手で………!!」
黒崎一護を葬る。自分の手で終わらせてやるのがせめてもの餞別だと涙花は信じていた。
「お前は!私の…私達の敵だ!!」
走り出した涙花の刃は、すぐそこまで近づいている。花太郎や岩鷲が叫ぶ中、それでも一護は動けなかった。
「そこまでだ」
冷え冷えとした声にはっとなった涙花が飛び退いた。涙花の周りを地獄蝶が飛んでいる。
「隊長」
「弐道、どういうつもりだ。第五席以下は執務室で待機と命令が出てるはずだぞ」
「それは………」
「今すぐ戻ってこい」
「待ってください!もう少しで旅禍を!!」
「隊長命令だ!今すぐ戻ってこい!!」
激昂した上司に逆らえるわけがなかった。悔しそうに一瞥すると一瞬で涙花の姿は消えた。
眉間いっぱいに皺を作る日番谷と意気消沈した様子の涙花、顔を顰める松本。十番隊隊長室は支重苦しい雰囲気に支配されていた。
「あえて何も聞かねぇ。どうせ言わないだろうしな」
「………」
「罰としてお前はしばらく自宅謹慎だ。いいな?」
「…はい」
「松本、連れてけ」
「了解しました」
松本に連れられて涙花は部屋を後にした。残された日番谷には苛立ちが積もるばかりだ。
本当は洗い浚い聞き出してしまいたかった。しかし今はそんなことよりあの旅禍を近付けさせないことが先決だ。
早く騒動が終わるように尽力をつくす、それしか解決法ないと思った。
自室の前には見張りが二人。どちらも十番隊の平隊士でどことなく申し訳なさそうにしていた。席官の見張りなんて気が引けるのだろう。隊長の命令なんだから気にしなくてもいい、と言っても態度が変わることはなかった。軟禁状態だがそれ相応の事をしたのだから仕様がないと思う。
行動を制限された涙花だったが後悔はしてなかった。後悔なんてするはずはない。だけど、この選択が正しかったのかどうかなんてわからないでいた。
間違ってなんかない。
暗い部屋でうなだれながら何度も言い聞かせる。だけど、また彼と刀を交えることになったら、自分は満足に戦えるだろうか?浮かんだ自問に涙花は答えをだせなかった。
「一護大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
「あの…一護さんは第八席とお知り合いなんですか?」
「後で説明する。自分でもよくわからないんだ」
「なんだよそれ」
「混乱しちまって………」
「少し休憩しますか?」
「………いや、行こう」
一度も名前を呼ばれなかったことに気付いたのは走りだしてからだった。
End
>>あとがき
戦闘シーンなんて書けない!!ない脳みそ絞りだして頑張りました。頑張ったのにこの出来ってどうなんだろう。
次も場面が飛びます。忙しいね、この連載。
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