「私って本当ジャンケン弱い…」

片手に袋を一つずつ持って己の運の無さに嘆きながら歩いているのは弐道涙花だ。書類処理から一時逃れられる休憩時間。隊長が居ないのをいいことに十番隊では誰か何か買ってこい、とのお達しが出された。そこで買い出しに行く人(パシリ)を決める席官から下っ端まで全員参加のジャンケン大会が開催された。涙花はそこで運悪く負けてしまった。

女一人で運ぶには大変な量である。入ってるものも様々だ。アイスに始まり、チョコ、煎餅、おにぎり、弁当、飲み物類。仕事中だというのにお酒やつまみ。さらには肉まん、おでんなど季節外れな物もある。それらが売られていたことにも驚いた。

本来だったらこんなことは居残り組の中で唯一の席官である涙花が止めなければならない…が、まぁ、休憩中だし、野外活動組にもいろいろ買ってくるればいいか〜、と第八席自らお許しを出した。

買い忘れた物はないか確認していると、向こうから九番隊が走ってきた。邪魔にならないように脇に退いてから軽く会釈をした。隊員達は足早に去っていった。

歩きながら先頭にいた九番隊の第八席のことを思い出す。旅禍侵入の警備で本来なら官席である自分も前線に立って指揮をとらなければいけない。しかし、回ってきた仕事は隊に残っての雑務だ。今まで前線に立たないなんてことはなかった。しかも、自分より官席が低い人も出動している。何で今回は前線にでれなかったんだろう………これといった理由が思いつかない。

でも、まぁ、今日の私の仕事は書類処理だ。与えられた仕事も満足に出来なければ前線どころか席官落ち。いや、こんなとこを隊長に見られたら………

翡翠の瞳が怒りに燃える様が見えた気がして、思わずきょろきょろと周りを見回した。そろりそろりと慎重に数歩ばかり進んだとき。それは、起こった。






『西方郛外区に歪面反応!三号から八号域に警戒令!繰り返す!…………』






警戒令、しかも異変が起きた場所は涙花が居る場所から近い。

向かったほうがいいのだろうか…だけど他の人もいるし、私が下手に動いても仕様がない気がするしなぁ。

あたふたしている間に警報は鳴り止んでシーンとなった。どうやら旅禍は流魂街に落ちたらしい。今すぐ危険なことはない。まぁ、それ以前に自分が出る幕はないだろう。これ以上遅くなったら隊室で自分の帰りを待ちわびている隊員達にブーブー言われてしまう。早く帰らないと…


気を取り直して歩きだした。





つもりだった。



実際はその場に縫い付けられてしまったように足が動かない。巨大な霊圧が二つ。しかもここから場所は近い。

一つは辛うじて知っていて、市丸隊長のだ。だがもう一つは知らない。

そこで漸く涙花は気付いた。巨大な霊圧のせいでかき消されそうになっているが、自分がよく知っている人の霊圧もそこにあることを。

「ジダンボウ?」

なにがあったのだろう。霊圧が段々弱くなっていく。ジダンボウとは涙花が幼い頃から面識があり、仲が良かった。だからこそ気がかりだ。

市丸隊長が一緒にいるなら危険な目に遭うなんてことはまず無い。まず無いと思うけど…それでも………もし危険な目にあっていたなら…

「………」





隊舎に向かっていた足は目的地を変えた。向かう先は白道門。









彼女の瞬歩にかかれば白道門にすぐついた。戦いの邪魔にならないよう、門の少し手前で立ち止まる。

ジダンボウの安全を確認したらすぐに帰ると決めていた。手を出すつもりはない。

立ち止まった場所が遠すぎため、目を細める。どうやら市丸の神鎗が始解して伸びているようだ。その先を目で追う。

辿り着いたその先、それを見た瞬間、何も考えられなくなった。

片腕が無いジダンボウと共に吹っ飛んでいく、



真っ黒な死覇装に映えるオレンジ。





「オレンジ…?」





尸魂界での日々。その記憶の中に埋もれていた思い出が蘇る。










「涙花ちゃん」










引っ張りだした記憶を消すように門が閉まる。たちこめた砂埃が消えて時、そこにいたのは市丸だけだった。

「………あら。人いたんね」

まるで初めて気付いたというように振る舞う。しかし、市丸ほどの死神が涙花の存在に気付かないわけ無い。

「市丸隊長」

「確か十番隊の子やね」

「はい」

「どないしたん?こないなところまで」

「妙な霊圧を感じたので…」

「あぁ、旅禍のこと?見てのとおりもう終わったからええで」


早ぅお帰り。


その言葉最後に市丸は姿を消した。聞きたいことが山ほどあったのに聞きそびれた。


ドサッ


今頃になって律儀にも持っていた買い物袋を落とした。溢れた蜜柑がころころと転がった。





それは、これから始まる波乱の幕上げにしかすぎなかった。












「痛てぇ…」

「黒崎君、大丈夫?」

「あぁ…なぁさっき狐目の他に誰かいなかったか??」

「私は見てないけどよ。石田君は?」

「僕も見てないよ」

「俺もだ」

「夜一さんは」

「…わしも何も見てないのぅ。お主の見間違えだろう」

「………そうか」







End






>>あとがき

書いてなかったけど蜜柑もあったんですよ。ぶっちゃけオレンジ色の食物なんて蜜柑しか思いつきませんでした(笑)

ジタンボウが変換できない……!!

次回はあの方が出てきます。



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