双極の丘に穿界門、一護達が現世に帰る。もう少しいてほしいが、彼らには彼らの生活がある。
「一護」
「お、涙花」
ちょうど浮竹と話し終えた一護に声をかける。涙花の傷はすっかり癒え、今では隊長三人が抜けた分を埋めるかのように働いている。今回の件で相棒の十五席にはえらく心配をかけてしまい、復帰早々怒られた上に泣き付かれた。
「もういいのか」
「大丈夫。心配かけたね」
「別に。どうってことねぇよ」
二人を隔てる壁はない。おかげてお互いすっきりした顔をしていた。
こんな風に話しをする日がくるとは思ってもなかった。いや、まず再会するなんて考えたことなかった。不思議な感じがする。だけど、もしかしたら最初からこうなる運命だったのかもしれない。
「弐道」
「日番谷隊長」
「ちょっとこれ借りるぞ」
「これ、って俺!?」
突如として二人の間に割って入った日番谷が、親指で指したのは一護だった。わけがわからない、と騒いでいる幼馴染みを引きずって離れた。涙花も日番谷の行動に唖然となっている。そんな涙花に声をかける少女が。
「あ、あの!!」
「はい?」
「弐道涙花さんですか」
「そうですけど…」
「やっぱりそうだ!!」
何か思うことがあったようで、本人だと確認した途端、嬉しそうにしている。名前は知らないが見たことがある。旅禍の中で唯一の女の子、つまり一護の友達だ。
「何か?」
「あたし、たつきちゃんの友達で井上織姫って言います!弐道さんは黒崎君の幼なじみだってこと聞いてたんです!!」
「たっちゃんの…」
空手が強くて頼りになるもう一人の幼馴染み。どうやら腐れ縁は今でも続いているらしい。
一護の傍にはたつきがいて………それだけではない。今の彼には仲間が沢山いる。
良かった、と安心した。何があっても一護は一人じゃない。
「井上さん。これからも一護のこと宜しくお願いします」
「あ、はい!こちらこそ宜しくされます!!」
「日本語がおかしいぞ井上」
「………」
「どうした石田」
「いや、黒崎の幼馴染みっていうからもっと乱暴な人かと思っていたよ」
「それは一護に失礼じゃないか」
その頃の一護はというと………
「急になんだよ冬獅郎」
「日番谷隊長だ………単刀直入に聞く。お前、弐道のこと好きなのか?」
「はっ?………な、何言ってんだよ!!あいつはあくまでも幼馴染みだ!!そりゃ、どっか危なっかしから護んなきゃ、って思うし、いつでも笑っていてほしいって思うけど………それは幼馴染みとしてで、いや、その、だからな………」
テンパっていた。まるで自分自身に納得させるようにブツブツと独り言を言っている。黙って聞いている日番谷も恋愛のことはよくわからないが、一護のそれは幼馴染み以上の気持ちではないのだろうか。癪だから教えてやらないけど。
「ちょっと、男ならはっきりしなさいよ」
「乱菊さん!?」
いつの間にいたのか、背中に乱菊がのしかかってきた。豊満な胸が肩にのって重い。多感な時期の男の子にこの状態は辛かった。しかも、どいてくださいと言ってもどいてくれない。なんのイジメだろう。
「これぐらいでうろたえてんじゃないわよ」
「いや、大問題だから!!」
「隊長はねぇ、涙花のこと心配してるの」
「心配?」
「そう。まぁ、あの子にかぎったことじゃないけど…今回大変な目にあったでしょ?それに自分にも幼馴染みがいるから人事だとは思えないのよ。親心みたいな感じかしら」
あぁ、だからか。今もビシバシと鋭い視線が突き刺さってくる。彼女を嫁にするため、父親に許しをもらいに行った青年のような気分になる。この歳でそんな気分を味わうのは早いんじゃないだろうか。というか、自分は結婚できる年ではない。
「って、そうじゃない」
「何言ってんのアンタ」
「なんでもないっス。ようは安心させればいいんですよね………冬獅郎!!」
「なんだよ」
乱菊を無理矢理下ろすと胸を張って、一護は言った。
「何があっても涙花は俺が護る。心配すんなよ」
現世と尸魂界。とても遠く安々とこれる場所ではない。それでも何かあった時はすぐに駆け付けよう。傷つかないように護ろう。
声にして
形にして
想いにして
今一度誓う
「おーい。そろそろ開けるぞー」
「はい!今行きます!」
浮竹に呼ばれるた一護はまたな、と二人に残して穿界門の所に戻った。
「あら、やだ。隊長、今の一護かっこよかったですね」
「どこがだよ」
日番谷に言わせればまだまだである。だけど、もうその目に迷いはないように思えた。
見送りに来てくれた人達へのお礼や挨拶を一通り終えると再び涙花と向き合う。
「隊長と何話してたの?」
「いや、別に」
まさか、お前のことどう思ってるか聞かれた、なんて言えるわけない。それでも追求してくる涙花をかわしていると門の準備が整った。
ついに別れの時がきた。
「元気でな」
「そっちこそ」
「ああ………なぁ、約束しないか?」
「約束?」
「そっ」
遠い昔に交わした約束ともう一つ。
「また会おうぜ」
小指と小指を絡ませる代わりに拳を突き出した。その意図を理解した涙花は頷くと同じように拳を作って、コツンと合わせた。
「約束ね」 「おう!!」
そしてその約束は案外、早く果たされることになる。
「ルキアまで、なんで現世に…」
「まったく。やっぱり一護には私がいないと駄目だな」
「お前っ!!」
「また会えたな一護」
約束の絆
どこにいても約束がある限り、僕らは繋がっていられる。
END
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