隊長三人が離反から数日後、落ち着きを取り戻した瀞霊廷は以前と変わらぬ静けさを保っている。

涙花はフラフラとさ迷っていた。人とぶつかり怒鳴られても歩みは危なっかしいままだ。

あのまま、あそこにいれば目が覚めたと知れて、きっと彼は会いに来ただろう。だからその前に窓から逃げ出した。幸運にも一階だったので苦労はしなかった。あれが二階だったなら上手く着地が出来ずに怪我をしただろう。この五日間、傷を癒すためだけにひたすら寝ていたのだ。急に動いたら無理がたたる。

それでもあそこにだけはいられない。


気付けば街外れまで来ていた。小川のせせらぎしか聞こえない。そっと川を覗き込めば澄んだ水に自分の顔が映る。なんとも情けない表情をしていた。見ていられなくてしゃがむと涙花は目を瞑った。





「見つけた」





頭に重みが加わった。咄嗟に見上げれば最も会いたくない人、黒崎一護がいた。怪我人が何してるんだ、と怒られたが怒りたいのはこちらである。会いたくないから逃げたのに、何で探しにくるんだ。

「何しにきた」

「心配だったから探してたんだよ。本調子じゃないんだから無茶すんな」

「馬鹿か貴様」

「あのな。そんな言い方はねぇだろ」

「私は、お前を裏切ったんだぞ!!」

平然と接してくるのに苛々して手を振り払った。一護が驚いたように目を見開らいたがそれも一瞬のことで、盛大に眉間の皺が増えた。それが涙花には悲しんでるように見えて、酷く騒ついた。

「お前を切り捨て死神であることを取ったんだ!!なのにどうしてそんなやつを探す!?そんなのは愚か者のすることだ!!」

半分、意地になってるのかもしれない。激しいものが溢れるのに身を任せて、言って良いことと悪いことの区別がつかなくなってる。

傷つけてるとわかっていた。腕にも傷を負わせといて今度は心にも傷をつけているのだ。だけど、それは涙花も同じで、自分の言った言葉が自分に跳ね返ってくる。

全て真実だから。

「約束だって破った!!もう、あの頃には戻れない!!」

涙花は居たたまれなくなって顔を伏せた。一護は静かに口を開く。

「…そうだ。戻れるわけもないし、俺は戻るつもりもない」

「………」

「だけど、全部否定することもないだろ?」

柔らかな声音に、弾かれたように顔を上げる。一護は困ったような、それでいてどこか優しげな表情をしていた。

「俺だって死神だったら同じ行動とってたかもしれないし。それに約束破ったなんて思ってねぇよ。だって、身体張って護ってくれただろ?」

死神だろうが、人間だろうが、なんだろうが、幼馴染みであることは変わらない。それに涙花は幼い時と同じように傷ついてまで自分を護ってくれた。一護にとってはそれで充分だった。

「俺にとって弐道涙花は今でもこれから先も大切な幼馴染みだ」

哀しいことに、記憶というものは確実に薄れる。しっかりと刻み付けても砂で造った城が少しずつ風化していくように消えてしまう。

それでも、なくなりはしなかったのは涙花がかけがえのない存在だということ。


それだけは何年経っても何処にいようと変わらない。


「冬獅郎に聞いた。お前虚に襲われて…っ………」

飛び出してきた車にブレーキをかけたが間に合わず、衝突して弐道一家は亡くなったと一護は聞いていた。涙花を探して駆け回ってる間ずっと悔やんでいた。

得体の知れない化け物は恐ろしかっただろう。両親は喰われ、一人ぼっちになりどれほど心細かったか………そんな思いをさせてしまった。

約束したのに自分は何も出来なかった。

「護ってやれなかった。ごめん」

伸びてきた逞しい腕が涙花を抱きしめ、厚い胸板に顔を押し付けた。いつのまにか肩幅も広くなっている。身長なんて同じくらいだったのに、見下ろされるぐらい高くなっていた。

黒崎一護は心身共に成長して強くなった。

今でこそ力を得たが当時は無力だった。仕方がなかった、幼すぎた。だから一護が悪くない、悪くはないのだ。

「バカっ」

怒って突き放したっていいのに、それどころか謝るなんてバカだ、本当にバカ。私は大バカ者だ。目先のことに捕われすぎて大切なことを見落としてた。

約束、破ってないよ。ボロボロだったのに、裏切ったのにそれでも藍染から護ってくれたじゃないか。

あのまま諦めていたら死んでいただろう。挫けてしまった心をもう一度を奮い起こすことが出来たのは一護のおかげだ。

「ごめん一護、ごめんね」

「泣くなバカ。それにごめんは無しだ」

「………、一護」

「ん?」

「ありがとう」

「おう」



二人は顔を見合わせるとようやく昔のように笑いあった。







End






>>あとがき

やっと仲直り(?)しました。回り道してようやく辿り着きましたね。

次が最終話です。



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