いつの間にか変な所に来ていた。さっきまでいた所とは違っており、着てる物まで変わっていた。

目の前には長蛇の列が出来ている。最後尾には黒い着物の女の人がいた。あの男の人と服装が一緒だ。

「お嬢ちゃん。早く並びなさいな」

「え、あっ、え?」

後から来たお婆さんに押されて列に並ぶと紙を渡された。『西流魂街五地区』と書いてある。そのあとにも漢字が続いているが難しくて一文字も読めない

間を置かずに人はやってくる。少しづつ前に進むと最前列が見えてきた。そこにも女性がいるようで紙を受け取っては指示をしている。

巡り巡ってついに涙花の番になった。紙を手渡す。

「えーっと貴方は…もしかして弐道涙花ちゃん?」

頷くと列から外された。そのまま入り組んだ道を進み、立派な建物に入って小部屋の中へと通された。家具は机と対になる二つの椅子しかない。待ってて、と言われ一人になる。

不安なまま時を過ごす事早、三十分。誰か来た。

「さっきぶりだな」

涙花の頭を撫でるのは助けてくれた男だった。お疲れ様です。海燕副隊長、と挨拶されている。名は海燕というらしい。

「悪いがこいつと話しがあるから席外してくれ」

「わかりました」

一礼して、退出するのを見届けてから向かい側の椅子に座った。袂をあさって花の形をした和菓子を二つ取り出す。一つを自分の口に放り込むと残りを涙花に差し出した。銘菓だから美味しいとの事。だからといって食べる気にもなれず貰うだけ貰っておく。

やっぱ、そうだよな、と海燕は思った。図太い神経でも持ちわせてない限りこの場で口にするのは無理だろう。少しでも和めばいいと思って持ってきたのだが、効果はなかった。

「名前、教えてくれるか」

「弐道涙花」

「俺は志波海燕だ。早速だが聞いてもらいたいことがある」

一から十まで全てわかるように説明するのは困難だ。どうしたらいいか悩みながらもぽつりぽつり話しだす。

「初めにここは何処かって話しだな。現世でいうところだあの世だ。通称は尸魂界だ」

この時点で意味不明だろうが続ける。

自分達は死神という存在だ細かく、話すとややこしいので当たり障りのない程度にしておく。

それから彼女がここ、 瀞霊廷に連れて来られたかである。これは海燕の個人的な事情だった。両親共々殺された上に、見知らぬ場所に一人放り出された涙花をそのままにしておくことが出来なかったのだ。

もう一つは虚に襲われるほど霊力が強いので保護するためである。わかりやすく悪いやつから護るんだと教える。

「お兄ちゃんが涙花を護ってくれるの?」

「そうだ。だから安心していいぞ」

「うーん………いいや」

「どうして?」

「一護が涙花を護ってくれるの!!」

「一護?」

「うん!!あのね一護のことは涙花が護って、涙花のことは一護が護ってくれるの!!だから大丈夫だよ!!」

「………」

涙花のはしゃぐ様子からその一護というのがどれほど大事なのかがわかる。

やはりよくわかってないらしい。少女の心はまだ現世にある。十にも満たぬ幼子に理解しろというほうが無茶なのだ。そしてその無茶なことをさせようとしている。



両親や友達にはもう会えないなんて思ってもいないだろう。



「涙花」

「はい」

「今から一番大事なことを話すからよく聞いてくれな」

席から立つと机を避けて回り込み、涙花の肩に手を置くと同じ目線になるようにしゃがんだ。

本来だったらこれは真っ先に教えることだ。後回しにしたのは、これが少女にとって何よりも残酷な真実だから。きっと傷つくだろう。それでもここで生きていくためには受け入れなければならない。

「あのな、お父さんやお母さん、友達とはもう会えないんだ」

「どうして?」

「………涙花はな、」





「死んでしまったんだ」





涙花が死に触れたことがあるのは一度だけ。捨て犬を一護と一緒にこっそりと育てた時だ。どちらの家もペットは禁止だったので、空き地の段ボールの中で飼っていた。毎日通って餌をやったり遊んだり楽しかった。しかし一週間ほど経った頃、突如として動かなくなったのだ。泣きながら一心に見せに行ったがすでに遅かった。亡きがらは空き地に埋めたことを今でも覚えている。



涙花が知った死というものは話したり遊んだり出来なくなること………



二度と会えなくなってしまうのだ。



「い…いやだ!そんなの絶対いや!!」

「わかってる。こんなの理不尽だよな。だけどもう、どうすることも出来ないんだ」

「だって涙花がいなくなったら一護がっ!!」

脳裏に幼馴染が浮かぶ。自分の身がどうこうの話ではない。ただ漠然と一護が泣いてしまうと思った。


自分がいなくなったらあの子は………


いじめられたら誰が庇ってあげるの?

転んだら誰が手を差し出すの?

泣いたら誰が慰めるの?


護るから、と約束したのに。


「いやだよ、そんなのいやだぁ…ふぇ…う……うわーん!!」

「涙花…」





泣こうが叫ぼうが結果は変わらなかった。いつしか成長して真央霊術院に入り死神になった。



ただ、そうして過ごしていくしかなかった。











「そしてあいつは10番隊に入隊したんだ」

「ちょっと待て、涙花が虚に殺された!?俺は事故だって聞いたぞ!!」

「それも虚の仕業だ。より多くの魂を喰らうために車と車がぶつかるように仕向けたんだ」

「そんなこと出来んのかよ」

「かなり知能の高い虚だったらしい」

「嘘だろ…」

「一護さん!日番谷隊長!」

「花太郎…そんなに慌ててどうした」

「弐道さんがいなくなったんです!!」

「んなっ!?」

「あいつはまだ目を覚ましてなかったはずだが」

「それがいつのまにかいなくなってたんです!探してるんですけど見つからなくて!!まだ安静にしてなきゃ駄目なのに………どうしましょう!!!」

「あのっ、バカ!!」

「あっ、一護さん!?」

「いい。行かせてやれ」

「えぇぇ、でも…」

「あいつならすぐに弐道を見つけられる」





そしてその時こそ、彼女も何らかの決着をつけるだろう。







End






>>あとがき

中身がデリケートな回でした。どうしようか悩みましたが、海燕ならはっきり言うだろうと思ったのでこんな形になりました。

次はようやく二人が話します。



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