幼いころの記憶というのは大人になるにつれて薄れていくのが常である。だけど涙花は昔の事を今でも鮮明に覚えている。彼女にとってあの頃が一番色鮮やかに輝いてるからだ。

弐道涙花と黒崎一護は幼馴染みだ。家はお隣りさんでお互いの両親は仲が良かったため、母親のお腹にいる時からの付き合いである。

一護は涙花ちゃん、涙花ちゃん、といつも涙花にくっついていたし、涙花は涙花で一護のお姉さんのような役割を果たしていた。二人はどんな時でも一緒だった。





「うぇ…」

「もう大丈夫だから泣き止もうよ」

男の子にしては泣き虫な一護はその日も泣いていた。そんな一護の手を引いて歩く涙花は泥と切り傷まみれになっている。涙花ほど酷くはないが一護も似たような状態だ。

「で、今日は何て言われたの?」

「男のくせに女の、あっと引っ付いて…うぅ…格好悪いって………」

またか、と涙花はうんざりした。昨日、今日始まったことではないが、一護は何かと近所のがき大将とその取り巻き達にいじめられる。今日も涙花がちょっと目を話した隙に囲まれていた。

最初は何を言われても笑って受け流すが、だんだんとエスカレートして終いには手が出てくる。こうなると一護も笑っていられなくなるのだ。

ついに泣き出した一護を見つけた涙花は取り巻きの一人に跳び蹴りをかまし、喧嘩が勃発した。三対一と不利だったが勝ってた。毎回女に負けるのが悔しいがき大将達は、本人になんだかんだ言っても無視されるので一護を標的にし、こりもせずに喧嘩をふっかける。悪循環だった。

「はい、ここに座る」

「うぅ、くっ…ひっく。痛い…」

「我慢」

ベンチに座わって一護の怪我の手当をする。傷口はさっき公園の水道で洗ったから大丈夫だろう。こうなることは予め分かっているので涙花は絆創膏を常備していた。

一護の傷は少ないのですぐに終了した。涙花は自分の治療に取り掛かる。それも終わる頃には一護も泣き止んでいた。全てを終えてやっと一息ついた。

「一護。せめて言い返さないと駄目だよ。笑ってても勝てるわけじゃないよ」

「うん」

「このままじゃいつまで経ってもたっちゃんに空手で一本もとれないし、遊子ちゃんや夏梨ちゃんを守ってあげられないよ」

「うっ…うん」

一応、返事はするものの本人にあまりその気はないらしい。涙花が護ってくれるという甘えがあるのだろう。一度ほっといてみようかなと思うが、それはそれで大変なことになりそうなので涙花は実行出来ずにいる。

「もう。涙花がいなくなったらどうすんの」

「大丈夫だよ」

「何で?」

「だって僕と涙花ちゃんはずっと一緒だよ」

そこだけはやけにはっきり言いきった。一護にしてみれば離れるほうがありえないのだ。

どこにそんな根拠があるのか…まぁ、少々世話がかかるが、それでも大好きな幼馴染みだ。ずっと一緒でもかまわない。いや、ずっと一緒のほうがいい。うん、一緒。

「仕方ないな〜。一護は涙花がずっと護ってあげる」

「それはダメ!」

一護は素直に頷くものだと思っていたので予想外の反撃を受けて涙花は面食らった。

「なんで?」

「守られてばっかは嫌だよ僕も涙花を護るよ」

こんな事を言い出したのは傷だらけで帰る度に、一護は男の子なんだから涙花ちゃんを護ってあげなきゃダメだよ、と叱られてるのを本人なりに受け止めた結果だろう。その心構えは立派だ。だがしかし。

「無理だよ。だって一護すぐ泣くじゃん」

しかも空手を習ってない涙花より弱い。本気を出せばそれなりに強いが、性根が優しすぎるせいで言い返すことすらままならない。

「無理じゃないよ!今より強くなるし、すぐに泣かないように我慢するから!!」

「本当?」

「本当!!」

どうやら今回ばかりは本気らしい。いつもならここまで強気な態度は示さない。それならば、と涙花は小指を差し出した。

「え?」

「約束しようか。一護は涙花が護るよ」

「あ、ぼ、僕が涙花を護る!」

小指に小指を絡ませ、指切りげんま〜………、と大きな声で言う。最後に勢いよく二人は同時に小指を離した。





「約束だよ」 「うん!!」





大人からみたら笑っちゃうような、ちっぽけで世界を知らないからこそ交わせた約束。それが二人にとっては何よりも大切な物だった。







End






>>あとがき

二人の過去です。長くなったので、二つに分けます。次もまた過去編。



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