クルリと丸まっている尻尾を振りながらつぶらな瞳で見上げてくる。暫し見詰め合った後に抱きあげて走った。庭を突っ切って目的の場所、家康様の部屋の前に着く。天気がいいためか障子が開けっぱなしになっている。家康様は文机に座っている。真剣なご様子で書き物をしているのを見て少し頭が冷えた。これは出直したほうがいいかもしれない。そろりそろりと後退するが家康様に気付かれた。

「そんなところで何をしているんだ名前」

「家康様とお話がしたかったのですが、お忙しいようですので後にいたします」

「いい。今ちょうど休憩しようと思ってたんだ」

「お気を使わないでください」

「違う違う。本当だ。こちらにおいで」

縁側に出てきた家康様は隣を座るように促す。距離を詰めると私の腕の中の存在に気付かれた。

「その子犬はどうした?」

「はい。庭に迷い込んでおりましたので保護いたしました」

抱えていた子を家康様の前に出す。尾をはち切れんばかりに振って子犬はワン!!と一つ吠えた。とても懐こい子だ。家康様は子犬を見て、次は私、と交互に見比べ始めた。そして居合わせた萩乃殿と顔を見合わせ吹き出した。

「家康様?」

「い、いや。すまない。似ていると思ったらつい」

どうやら萩乃殿も同じことを思ったらしい。着物の袖で顔を覆っているが笑い声が漏れている。家康様に至っては隠す気もないようで満面の笑みである。子犬を目線の高さまで持ち上げて向き合う。見つめると耳をピクピクさせ、クゥンと鳴きながら小首を傾げた。ああ、可愛らしい…じゃなくて。

「似ておりますか?」

「とても!!なぁ萩乃!!」

「はい」

それは褒め言葉として受け取っていいのだろうか。図りかねるていると家康様は瞳を輝かせた。

「わしにも抱っこされてくれないか」

「いいですよ。どうぞ」

子犬を渡すと膝に乗せて愛でているが撫で方が豪快で子犬の顔が揉みくちゃになる。しかし、嫌がる素振りは見せず、むしろじゃれついているので案外、気持ち良いのかもしれない。

「可愛いな」

「えぇ。愛くるしゅうございます」

萩乃殿は微笑みながら家康様に相槌を打っている。子犬自身が愛らしいというのもがあるがその子犬と戯れる家康様を見ていると和やかな気持ちになる。子犬にも家康様にも人を癒す力があるのかもしれない。

お茶を準備すると萩乃殿は退席した。私は家康様の隣に座り、子犬は私と家康様の間に座らせる。子犬は大きな欠伸をすると身体を丸めると寝始めた。

「疲れてしまったのかな」

「そのようですね」

頭を撫でると身体をくっつけてきた。触れた部分がじんわりと温かい。尚もなで続けていると太ももに顎を乗せた。寝苦しくないのだろうか。

「ふふ。こんな体勢で寝るなんて器用な子ですね」

「…名前」

「はい」

「子犬も可愛いが、やはり名前も可愛いな」

相変わらず、恥ずかし気のない家康様に顔を赤くしていると、やはり可愛いな、と言われた。か…からかわないでくださいませ家康様!!





子犬のワルツ










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