この世は光で満ち溢れている。血で血を洗うような醜い時代じゃない、争う必要もない。秀吉様も半兵衛様もご健在だ。家康もいれは刑部もいる。三成は尊敬する人や友人、喧嘩友達に囲まれて穏やかに暮らしていた。

同じ魂を持つ違う人間。私は彼を知っている。前世の記憶、彼の隣に私はいた。だからこそ全部見ていた。彼は絶望と悲愴の中、家康に討たれた。










お昼休みになり飲み物を買いに廊下を歩いていると二人の男子生徒が走ってきた。一方的によく知っている彼らは追いかけっこをしているようだ。巻き込まれないように端に寄れば家康が、次いで三成が通りすぎていく。二人とも私になんて見向きもしない。家康はともかく、頭に血がのぼっている三成は廊下は走ってはいけないという基本的なことも忘れているらしい。そのうち怒られるだろうな、と思っていれば案の定、武田先生に見つかってお叱りを受けている。片ややってしまったと苦笑い。片や屈辱だとばかりに唇を引き締めている。

彼らは前世のしがらみから解き放たれて現世の人生を謳歌している。和やかな光景に欲求が募る。家康が羨ましい。私も三成と一緒にいたい。そんな想いは強くなる一方だが、ある可能性が歯止めをかけている。考えすぎなのかもしれないが思ってしまうのだ。前世の記憶を持つ私と接触したら三成は思い出すのではないか、と。

昔、見た映画に、前世の記憶をもつ女とその女の前世の恋人であった男が現世で出会い、交流していくうちに男が前世の記憶を思い出す、という内容の物があった。結末がどうなったかは覚えていない。所詮は作り話しだが割りきれなかった。全てを覚えている私が存在しているのだから。

もしも思い出してしまったら、三成のことだ。前世は前世と割りきれるわけがない。そうなれば再び絶望と憎悪の淵に叩き落とされるだろう。そんなの駄目、三成の穏やかな日常を壊したくない。だから、私は遠くから二人の姿を眺めるだけにしている。

私の想いは蓋をすればいいだけのこと。三成の隣にいれなくたって、三成が幸せならならそれでいい。ただ、名前、と呼ばれないことや、あの琥珀色の瞳に私が映らないのは酷く悲しい。

「貴様のせいだぞ家康!!」

「人のせいにするなよ三成」

武田先生から解放された三成と家康は肩を並べて歩いていく。

「………」

二人の姿を最後まで見送くらずに、私は彼らとは反対の方向へと歩き出した。





寂しいのは我慢するよ。だから今度こそ幸せになってね、三成。





何も無くなった世界で、置き忘れた心が愛しいと叫ぶけれど



けして貴方には伝えていけないのです。










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お題、風雅様より
「何も無くなった世界で、置き忘れた心が愛しいと叫ぶけれど」使用



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