「間違いなく俺の子か?」

「はい」

関係を持ったのは小十郎以外にはいない。疑いようなく小十郎の子だ。

再度確認を取ると考えるような素振りを見せる小十郎に名前の心臓は大きく跳ね出す。本来だったら喜ばしい事、すぐにでも報告すべきなのだが名前は小十郎の本心を知っている。偶然聞いてしまった。


「政宗様が嫁を娶り、お世継ぎが生まれるまではこの小十郎、嫁も娶らなければ子も作りません」


やや子が出来たと知った時、小十郎の言葉を思い出して危惧したのだ。政宗にはお世継ぎどころか嫁すらいない。言ったことを違えぬためにはどうするか、方法は一つ。


生まれてきた子を殺す。


どんなに名前が泣き叫んでも、怨んでも、必ずやるだろう。それが政宗に忠誠を誓った小十郎の覚悟。わかっているから恐ろしいのだ。

小十郎が顔を上げて呟いた。

「すまねぇ」

名前は息を詰めた。嫌だ、せっかく授かった大事な命なのに…こんな時代だ。悲しいことや憤りを感じることも多いだろう。だけど、其れと同じぐらい楽しいことも嬉しいこともあるはずだ。私はそれを教えてあげたい。なのに生まれてきてすぐに殺されるなんてあんまりだ。いや、私はこの子の母親だ。そんなことは絶対にさせない。この命と引き替えにしてでも守ってみせる。

いざとなれば名前は小十郎から離れてでも子を産むつもりだ。心が引き裂かれそうなほど辛いが、無惨にも殺させるつもりなんてない。

「小十郎様、私は!!!」

「順番が逆になっちまったな」

「は?」

「普通やや子は祝言が終わってからだ。よし、子が生まれる前に済ませるぞ。そうと決まれば政宗様にご報こ「待った。ちょっっっと待った」

勝手に動き出そうとしている小十郎を名前は止める。話し遮ったので怪訝そうにしているが、こっちはまったく状況についていけない。ちょっと待って、説明して。一体全体どういうこと?

「産んでも良いのですか?」

「誰が駄目だって言った」

「だっ、だって!!政宗様の事はどうするんですか!?」

「お前、聞いてたのか?」

「…すみません」

「………最初はそのつもりだった」

「うわっ!!」

空いてる手を膝裏に差し込み名前を持ち上げる。 名前はグラグラと揺れる体を支えるために小十郎の肩に手をつく。自分を見上げる小十郎の表情は朗らかだった。

「政宗様にいいかげんお前を嫁に迎えろとせっつかれてな。その事を申したら思いっきり殴られた」



「おいおい。竜の右目ともあろう者が好いた女を幸せにする甲斐性もねぇのか」

「そういうわけでは!!」

「HA!!お前も三十路近いんだからよぉ。お家のことも考えろ」

「しかし…」

「いいか、よく聞け小十郎お前が嫁を娶らず、子を残さなければ片倉家は断絶だ。伊達家を支える者もいなくなる。そうなったらどうなるか…わかるだろう?」

「政宗様の仰ることはよくわかりますが、私は一生嫁を貰わないということではなく、政宗様がよ「だっぁぁぁぁ!!しゃらくせい!!こうなればあれだ、命令だ!!俺のことは気にせずさっさと名前を娶って子を成せ!!you see!?!?」

「………I see」




政宗らしいと言えば政宗らしい。ちなみに2人は政宗以外には内緒で付き合っているが、名前と小十郎の関係は伊達軍の者なら誰でも知っている。それなのに本人達は一生懸命に隠しているのだから滑稽である。

「だから心を入れ替えたと?」

「それもあるが正直、自信もなかった」

「え?」

「子を…俺の子を殺せるかどうかの、だ」

もし、政宗に嫡男が出来るより先に己に子が出来たら。名前と小十郎の付き合いは長い。自然とそういう関係にもなったため、可能性がないわけでもなかった。心から愛した女との間に出来た大切な子を産まれた瞬間に殺すことが出来るのか。自問自答を繰り返したが答えはでなかった。己の覚悟はこの程度か、情けない。と、思ったが政宗はそれでいい、と笑っていた。

大事な者が増えるということは弱みが増えると同時に、自分を支えてくれる者が増えるということにもなる。それは素晴らしいことで、だからこそ人は強くなれるのだ。

小十郎は目の前にある名前の腹に、顔を押しつけた。名前は小十郎の頭にそっと手を添える。名前にも感じないのだ、小十郎にわかるはずがない。だが、確かにここには新たな命が宿っている。

どうしようもないほど愛しい。名前も、お腹の子も。

「今は心から嬉しく思ってる」

「では、本当によろしいのですね?」

「無論だ。いや、俺のために産んでくれ」


名前もお腹の子も俺が守ってみせる。


そう言われて安心したのか、名前は泣き出した。それに気づいた小十郎は泣くこともないだろう、と口にしそうになってやめた。元を辿れば不安にさせてここまで追いつめたのは自分だ。反省しなければならない。

「幸せにするから俺の嫁になってくれるか?」

「なり、ますっ!!」

「男でも女でもいいから元気な子を産んでくれ」

「はいっ!!」



いずれ生まれてくるその子は、小十郎や名前だけでなく伊達軍にも優しい時間をもたらすだろう。





愛されて君は、
(皆に望まれて君は生まれてくるんだよ)










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PCサイトで相互してくださったゆんさんに捧げました。これ書くの楽しかったですネタ思いつくまで長かったですが、一日で書き上がりました。実は題名が思いつかなくて「ご懐妊物語」というふざけたのになりそうだったことは内緒です(言ってるよ)

史実、というか逸話も混ぜて書いてみました。史実の小十郎さん(景綱さん) は母親共々殺そうとしたらしのですが、書状で政宗さんに止められ思いとどまりました。うちの………というかBASARAの政宗さんは拳で止めると思います。それが漢(何)

ゆんさん!!こんな物でよろしかったらどうぞ納めください!!返品はいつでも可なので!!!相互ありがとうございました!!お読み頂いた皆様もありがとうございました!!










「筆頭ー俺にも抱っこさせてくださいよー」

「オメェーはさっきやっただろうが!!次ぁ俺だ!!」

「No!!もう暫く俺が抱っこしてる!!」

「「「「「えぇえーーー!!!」」」」」

「オメェ等!静かにしやがれ!!赤ん坊が泣き出すじゃねぇか!!!」

「旦那様も充分声が大きいですよ」




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