不名誉な事この上ない。口惜しさすら感じるが、悪いのは自分だ。死んだふりをして機を窺っていた雑兵に右目の瞼をパックリ斬られた。無論、返り討ちにしてやったけど。傷はたいしたこともないのに血はダラダラで顔の右半分が真っ赤に染まった。痛くもなかったので止血もせずに本陣に戻った、それがいけなかったのだ。血を流しながら帰ってきた自分を見て陣はてんやわんやの大騒ぎ。平気だ、といっても誰も聞いてくれなかった。
頭と右目を包帯でグルグル巻きにされた名前は、誰も近寄ってこないほど不機嫌である。鍛錬禁止令が出てしまったし、仕事をしようにも片目しか見えないせいで文字が書きにくい。くわえて廊下を歩けば、
ゴンッ
「っ!!!」
奥行がよくわからないため歩くたびに柱にぶつかってしまう。一度など庭に転がり落ちた。顔を押さえて身悶える姿を女中や同僚達に見られている。まったくもって恥ずかしい。それでも懲りず廊下を突き進み衝突すること早、五度目。
「seems to be painful.」(痛そうだな)
それは右目の事か、それともぶつけた鼻やおでこに対してか。一連の出来事を見ていたらしい政宗が苦笑いしている。ちょうど彼の自室の前だった。ちょいちょいと手招きするので名前は政宗の目の前に座った。そういえば怪我をして以来会っていなかった。
「Injury(傷)はどうだ?」
「眼球に異常はないので、傷が塞がればまた元のように見えそうです」
「………」
「政宗様?」
「………ぶっ」
政宗はジッーと名前を見つめると唐突に吹き出した。そのまま笑いっぱなしである。多分、右目に関して笑っているのだろう。今一番触れられたくない部分を、あろう事か政宗は笑ったのである。ただでさえ悪い名前の機嫌は奈落の底へ真っ逆さま。周りの空気はどんどんと冷えていく。もうすぐ吹雪を起こしそうなとこまで来た時だ。
上半身といわず身体全体が動いたが名前の意志で動いたわけではない。政宗が腰と手を掴んで引っ張ったからだ。胡座をかいた膝に乗せられ、頭を抱え込むように抱きしめられた。政宗の腕の中で名前はパニックになったが、彼は意に介さず身体を前後に揺らしている。まるで起き上がり小法師のようだ。
「ま、政宗様?」
「おそろいだな」
身体を離すと人差し指で己の眼帯をトントンと叩き、包帯の上から何度も啄むような口づけを落としてくる。その表情は満面の笑みで、名前の自由を奪うには充分すぎるだった。
まさかそれだけの理由で機嫌が良いのか。いや、仮にも部下が傷を負ったのに喜ぶ主人が何処にいる!!あぁぁぁ、いつもはニヤッとかニッーとかそんな効果音がつきそうな笑みなのになんで今はニコニコしてるんだ!!おそろいって…くそーーー!!今日の政宗様は可愛いじゃないかァ!!!!
政宗の笑みが見たいがためにされるがまま、なされるまま。貴重な物が見れたし右目の怪我も悪くはないかな、といつのまにか機嫌が治った名前は随分と現金である。
怪我の功名
(って、やつなのでしょうか)
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あえて伊達さんのトラウマ(?)を明るく書いきましたがなんとも不謹慎(笑)可愛い伊達さんを狙ってみましたがあえなく撃沈しました。