財布がない事に気付いたのはコンビニでお会計になったときだ。鞄の中をどれだけ漁っても見つからない。家に忘れてきたかと思ったが今日のお昼に購買部でパンを買ったことを思い出す。そういえばそのまま机に財布つっこんできちゃった…すぐ鞄に入れればよかった!!
後悔しても遅い。営業スマイルを作っている店員さんに謝りながら商品を棚に戻しコンビニから外へ、さらには今きた道を逆走して学校に急いだ。さよならドラマの再放送&牛乳プリン。
教室の前。念のためもう一度時間を確認してみる…ダメだこりゃ。走っても完璧に間に合わない。なんのためにあんなに急いで帰ろうとしたんだろう。
溜め息吐きながらガラガラとドアを開ける。誰もいないと思われた教室に人がいた。その人は窓際の一番後ろの席に座って頬杖つきながら外を見ている。オレンジ色の髪の毛が夕日によって輝いている。幻想的な雰囲気といつもとは違う憂いを帯びた表情がマッチして見惚れてしまった。
「あれ?苗字ちゃん?帰ったんじゃなかったの??」
それはその人、猿飛佐助君に声を掛けられるまで続いた。
「いや〜俺様としたことが気付かないなんて失敗失敗」
ごめんごめん、と首を傾げて謝る姿はそこら辺の女子より愛くるしい。いつもの飄々とした猿飛君に戻ったよ。普段の彼はふわっふわっとして風船のように軽い。
「ところで苗字ちゃんは何で戻ってきたの?」
「あ」
当初の目的を思い出し、自分の机のもとに行くと中を覗き込む…奥のほうにありました。財布を取り出すと猿飛君が目を丸くした。
「財布忘れてたの?」
「うん。さすがに財布は学校に置いとけないから…」
「そうだね教科書とかノートならまだしも財布はねー」
「だね…」
緊張しているせいで歯切れが悪い。猿飛君は真田君と共に良くも悪くも目立っており、容姿も性格も良いので大変モテる。しかもあの伊達君や長曾我部君、毛利生徒会長ともお知り合いらしい。あまり目立たない私とは真逆の位置にいる人だ。そんな有名人と私は同じクラスといえ、話したことが殆どない。むしろ皆無だ。
「猿飛君は何してたの?」
「ちょっと黄昏てた」
「そうなんだ」
「俺様も色々気苦労が多くてさー」
細めた目が何処か遠くを見ている。多分、己の日常生活を振り返っているのだろう。真田君のお世話で毎日大変そうだもんね。
「そうだ!!これも何かの縁だし苗字ちゃん俺様の相談にのってよ!!」
「え…」
「俺様ちょっと悩み事があるんだ」
ただのクラスメート、しかもほとんど話したこともないのに悩み事を打ち明けちゃっていいの?かといって、悩んでいる人をあしらうなどの冷たいことも出来ないので素直に従うことにした。
猿飛君が手招きして座るように促す。猿飛君の前は真田君の席………恐る恐る座った。当たり前だが普通の椅子だ。
「いやだな〜いくら旦那の椅子だからって自然発火とかしないから大丈夫だよ」
「自然発火!?」
思わず腰を浮かべる…やっぱり何も起きない。というか、そんな心配はしてないから!!なんて事言うんだこの人は。
「でね。悩みごとなんだけどね」
「うん」
私が座り直ると猿飛君は話し出した。旦那の世話疲れちゃった、とか言われたらどうしよう。むしろ私より真田君がどうしようだよね。真田君は猿飛君がいないと生きていけないよ、きっと。
「実は俺様好きな子がいるの」
「えぇ!?」
飲み物飲んでたら確実に吹き出しただろう。それぐらいの衝撃発言だ。猿飛君のファンが聞いたら泣く、寧ろ卒倒する人が続出だ。猿飛君ファンご愁傷さまです、とそっと胸の内で合掌しておく。
「その子、かなり鈍くてなかなか俺様の気持ちに気付いてくれないんだよね。しかも接点ないせいかあまり話したことないし」
「た、大変だね」
右手を肘に、左手は頬に添えて嘆いている。学校でも三本指に入るほどモテモテ人間、猿飛佐助君が好きになった女の子が気になってそわそわしてしまう。
「あの、その子ってどんな子?」
「ん〜クラスではそんなに目立たないかな」
意外だ。もっと派手な人かと思った。
「でも明るくていい子だよ〜。友達といるとテンション高いし」
へぇー。休み時間は一人で読書、とかそういうタイプではないらしい。
「見てると面白いよ。なんか犬みたい」
そういえば真田君も犬っぽいよね。母性本能でもくすぐられるのかな?それとも面倒見がいいのか。
「なんだかんだで可愛いし」
「はぁ」
たっぷり惚気?を聞かされてから気付いたが、私は恋愛経験というものが皆無だ。彼氏いない歴=年齢だもの。相談にのれない。
「あのね、猿飛君」
「うん?」
「今更なんだけど、私って恋愛経験少ないから役にたたないよ」
「あぁ大丈夫。気にしないから」
頼ってくれるのは嬉しいがその返答はおかしい気がする。せっかく、たいした仲でもない私に相談してくれたのだから、何とか力になってあげたい。けど、その力がない………あ。そこで思いつく。私よりうってつけの人がいるじゃないか!!
「そういうことは伊達君に聞いたほうがいいんじゃないかな?」
「竜の旦那?」
「そう」
自他共に認める学校一のモテモテ男の伊達君なら百戦錬磨、鬼に金棒。きっとためになることを教えてくれるはず。
「あーダメダメ。竜の旦那は女の扱いには慣れてるけど本気の恋なんてしたことないから参考にならないもん。役立たない」
わざわざ腕を交差して×印を作ってまで不合格を言い渡す。あの伊達君も猿飛君によればてんでダメとのこと。にこやかな顔でなかなか厳しい評価をつける。
「苗字ちゃんの考えでいいからさ教えてよ」
「えっと…ありきたりだけど告白でもしてみたらどうかな?意識してもらえるよ、きっと」
「そうかー。それじゃ早速実行してみるよ」
「うん。がん…ばっ……て………」
応援の言葉は途切れる。猿飛君が机から身を乗り出して距離を詰めてきた。突然の行動に驚いて固まると、
チュッ
可愛い音と共に、鼻先に柔らかいものが降ってきた。例えるならマシュマロみたいなもの。なんだか知らないが猿飛君の顔が物凄く近い。
「俺様の好きな子は…目の前にいるよ」
ニコニコ笑顔から一転、ニヒルな笑みになっている。
「とっ!もうこんな時間!!夕飯作らなきゃいけないからまた明日ね!!」
パッと私から離れると鞄持ってさっさと帰ってしまった…固まったままの私を残して。その数十秒後、椅子ごと引っ繰り返った。
ななっなな何今の!?!?好きな子って!!つか、今、何した!?何したんだーーーーー!!!
わーっ!!と、頭を抱えて踞った。それは通りかかった先生に発見されるまで続くことになる。
「佐助ーー!」
「おっ旦那おかえり〜」
「思いの外時間がかかってしまってな。遅くなってすまぬ」
「大丈夫だよ」
「そうか。なら行こう」
「あいよー」
「佐助、随分機嫌がいいな」
「そう?」
「うむ。何かあったのか?」
「もうすぐ前々から欲しいと思ってものが手には入りそうなんだー」
あれぐらいしとけばいやでも俺様のことを意識するだろう。本当は口にしたかったけど…それは後のお楽しみってことにしよう。あとは落ちるのを待つだけ。明日からどんな反応をするのか楽しみだ!!!
「そうか。早く手に入るといいな」
「あと少しなんだけどな〜。ま、気長に待つよ」
「(佐助の欲しい物はなんだろう………)」
それは女の子だなんて、幸村は知るよしもなかった。
さぁ!!
落ちておいで!!
(優しく抱きしめてあげるから!)
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題名が明らかに適当です(笑)名字呼び&鼻先にキスがポイントだと思ってます。あんまり言うと引かれるので控えます←
「佐助」
「はい?」
「佐助の欲しい物はなんだ」
「さっきの話の?」
「うむ」
「知りたい?」
「知りたい」
「あのね…」
「(ゴクッ)」
「やっぱ内緒」
「(ズルッ)そ、そこまで言っといて秘密にするのか!?」
「まーまーそんなに焦らないでよ。ちゃんと手に入ったら教えてあげるからさ」
「まことだな?」
「うん。てなわけではい、飯」
「親子丼!!頂きます!」
「どうぞ」
(旦那はずっと知らないほうがいいと思うな〜)(笑)