戦っつーのはやるだけやってハイ終わり、ってもんじゃねぇ。事後処理が沢山ある。特に籠城した城に攻め入ったあと一番最初にやることといえば残党狩りだ。

「どうだ小十郎?」

「はっ、たった今入った連絡では倉で自害しようとしていた苗字の一人娘の姫とその侍女達を捕らえたそうです」

「苗字のねェ。Huhn〜」

「いかがなさいましょう」

「姫さんはここに連れてこい。侍女達はprison(牢屋)にでも入れとけ」

「承知しました」

小十郎が指示を飛ばす間俺は革の手袋をはめた己の手を眺めていた。

もうすぐ長年求めていたものが手にはいる。苗字が治める小国などさほど重要じゃなかった。ここがなくても天下取りなど充分やれる。

それをわざわざ攻め入ったのは……

「来ました」

ゆっくりと顔を上げれば逃げ出そうともがいている姫とつれてくるのに苦労している兵士が。それを見て、歓喜に胸が震えた。

「離しなさい!無礼者!!」

「殿の御前でみっともないぞ!!」

俺の前に着いても尚暴れるもんだから顔から地面に崩れた。兵士はそのまま押さえ込もうとしている。

「おいおい。ladyにたいしてそれはないだろ。起こしてやりな」

「御意」

体勢を立て直した姫は殺気のこもった目で睨み付けてくる。

翳りのない強い眼差しは凡人が出来るような物ではない。普通、負けた国の女は己の行く末を按じて怯えた目をする。それがこの国のお姫さんときたら、殺されてもおかしくはない状況下にありながら屈したりはしない。

「Hello.princess ご機嫌はどうだ?」

「伊達政宗!!」

「てめぇ、敗軍の将の娘のくせして政宗様を呼び捨てにしてんじゃねぇぞ」

小十郎のドスのきいた声に一瞬怯んだがすぐに毅然とした態度をとるお姫さんは随分と立派だ。どうやら苗字はちゃんと教育を行っていたらしい。そうでなきゃ困るぜ。しかし、小十郎がいたんじゃおちおち話も出来ねぇな。

「おい、ここにいるやつら全員出てけ」

「政宗様」

「俺の命令は絶対だ yuo see?」

「………御意」

何か言いたげな小十郎は目を伏せるとよくわかってない兵士を連れて引き上げた。どうせ遊びすぎです、とか言いたいんだろ。後でゆっくり聞いてやるから今はこっちを楽しませろや。

「やっと二人っきりになれたな。Ah…名前姫」

「気安く名を呼ぶな!!」

名は名前で当たっているようだ。ま、あの日からこの名前だけは何があっても忘れなかったがな。

「くくっ………さすが苗字の娘。強気だな」

たとえ負けようが媚びへつらうことはしない。気高くそれでいて純粋な魂…ますます汚したくなった。

「いいことを教えてやるよ。あんたも知ってると思うが苗字の当主とその奥方は自害した。が、それ以外は全員生け捕りにしてある」

「!!」

…本当にわかりやすいお姫さんだ。家臣達が無事だとわかった途端、僅かだが気を緩めた。今はそうやって安心してるといい。すぐどん底に突き落としてやる。

「俺は無闇やたらに殺したりはしないからな。ただし、condition。条件がある」

「条件?」

「そうだ。何、簡単なこと」


さぁ、あんたはその顔をどんなふうに歪めてくれるんだ?


「あんたには米沢城に人質として来てもらう。それから、そうだな………ゆくゆくは俺の妻にでもなってもらおうか」



驚愕してお姫さんが目を見開く。そりゃそうだ。屈辱的だろうな。信じられないか?でも俺は本気だぜ。

「何を言ってるの!?」

「おっと。自惚れんなよ?あんたごときが俺の正室になれると思うな」

「そうじゃない!!どうして私が父様と母様を自害に追いやり、国を滅ぼしたあなたと夫婦にならなきゃいけないの!!」

「いやか?」

「いやだ!!そんなことになるならこの場で舌噛み切って死んでやる!!」

予想通りの展開にどうしようもなく笑えた。ここまでくると自分で自分が恐くなる。馬鹿にされたと思ったのか、姫は笑う俺に噛みついた。

「出来ないと思うか!?」

「Yes.あんたは自害なんて出来ない」

「馬鹿にするな!私とて武人の娘!!生き恥をさらすぐらいなら潔く!!」

「HA!!やってみろよ!!だけどなぁ、あんたが人質としての役目を放棄したらこんな国には用はねぇ…家臣達は民共々皆殺しだ!!!!

姫は一気に青ざめた。姫さんのような人間は自分より周りの大切な人間が傷つくことを一番に恐れる。特に苗字は民や家臣を大切にする仁君で有名だ。ならその娘もさぞかしお優しいことだろう。姫さんが人質であると同時に家臣達や民も人質であるのだ。実に合理的。押さえやすくて助かる。

「なんてことを…!!」

「なんだったら見せしめのためにここで一人斬ってやろうか?」

「外道!!」

「それは織田軍の明智のことだ」

でも、あんたの前じゃ明智と同じぐらい酷い人間かもな。唇噛んで一生懸命に耐えているあんたのほうが着飾った妓よりよっぽどそそられる。

「Oh.そんなに強く噛んだら血がでるぜ」

「く、来るな!!私に近づくな!!!」

手は縛られているが足は自由だ。その気になれば逃げることも出来るだろう。だが、籠城のせいで削られた体力では不可能だ。今の彼女をつき動かしているのは俺への憎悪だけ。

「諦めな」

「寄るな!!」

距離を縮めると同じ目線になるようにしゃがんで顎を掴む。恐怖のためかガタガタと震えており、その振動が腕を通じて俺までに伝わってくる。ヤバいなお姫さんに夢中になって天下とりを疎かにしちまいそうだ。小十郎に怒られるな。

ついに切れたらしく血が流れ落ちた。親指で拭ってやる………随分綺麗な紅だな。心が綺麗な人間は血まで綺麗だというのか?だったら俺の血はどうなってるんだろうな。

「見ろよ。鮮やかな紅だな」

「っ…」

「ふっ。やっとだ…やっと………俺はこの時をずっと待ってた!!」



あの時からずっと―――





あれはまだ初陣もしてないころだった。誰に何のため連れられたかさっぱり覚えてないがとにかく大名がいっぱいいた。おそらくそれなりに仲がいい大名同士の茶会かなんかだったのだろう。表面では愛想よく笑っていても腹の中では探り合い。わかりやすいぐらい全員目が血走っていて滑稽だった。そんな中で唯一、本当に目元を弛ませにこにこしていたのが苗字の当主だった。

しばらくして解散となり帰るため散々になった時だ。

「父様!!」

この場に不釣り合いな高い声。色鮮やかな着物の裾を蹴り上げながら走ってきたのは童女だ。その後ろから付いてきた女人は誰もが見とれるほど美しかった。俺の前を歩いてた苗字の当主に勢い良く童が抱きついた。

「名前!!今日はお客さまが沢山来るからここに来てはならぬとあれほど言っておいたであろう!!」

「だって名前、父様にお会いしたかったんですもの」

「すみませぬ。私がちゃんと止めておけばよかったのですが………」

「うむ。来てしまったのはしょうがない。名前、今後は父様の言う事をちゃんときくのだぞ」

「はーい。父様ー!!!」

「はっはっは。名前はまっこと元気がいいのう」

何だかんだ言いつつ弛んでた目元をさらに弛ませ童を抱き上げた。童は楽しそうに声をあげる。そういえばここは苗字家の居城だったな。

「あれが苗字殿の一人娘の名前姫か。なかなか可愛いのう」

「何をいう。奥方もかなりの美貌の持ち主であるぞ」

「苗字殿自身も民や家臣達に慕われているらしいな。その上武術にも優れ教養もあるとお聞きする」

「国もかなり豊なようだ」

「小国ながらあなどれないということだな」

誰かの会話が右から左へ通過する。つまりはこの乱世でありえないほどの幸せな国なのだろう。

童女………名前姫が苗字の当主から離れるとパタパタとそこらを駆け回り始め当主が慌ててそれを止めようとする。奥方はそれを微笑みながら見守っていた。そこにあったのは俺では一生得られない幸せな光景。

羨ましと思う以前に壊してみたいと思った。特にあの名前姫の幸せそうな顔を苦痛や憎しみに変えることが出来たなら………

一度芽をだした欲望は時をおかずにどんどんと膨れあがりついに俺は決心した。いつの日かこの国を攻め滅ぼしてやろう。そしてあの姫にこの世の絶望を見せてやる。それがこれからの俺の生きる糧になるのだ。





そしてその欲望は実現した。

「一つだけ誤算があるとするなら、あんたが予想以上にいい女になったことだな」

「や、やめて…」

「Why?何をそんなに怯えてるんだ」

「離して!!!」

誰が離すか。数年かけて力を蓄え、やっと手に入れたMy princess.

手に力を込め綺麗に歪んだその顔に詰め寄った。



「せっかくのpartyだ。楽しまなきゃ損だぜ」





そして無限に続く地獄へと堕ちていけ。





狂気の宴
(この感情を愛とよぶなら俺はあんたを愛してるぜ名前)










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実は書くのが結構楽しかったなんて言えない(言ってるよ)






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