死ぬなと叫ぶ

おれのために命を捨てるなとそんな馬鹿な真似はやめろ と

制止を振り切ろうと懸命に振り払おうともがきながらあなたは訴える

(死ぬな?生きろ?)

優しすぎる貴方らしい言葉に笑みがこぼれた

(死ぬな 生きろ)
(死ぬな 生きろ)
(死ぬな 生きろ)
(死ぬな 生きろ)
(死ぬな 生きろ)

ならば 問おう

貴方の為に生きられないのなら一体何の為にこの命 捨てさればよいのだ?

(生きる理由を失えと?)











嫌いだった。立場は違えど同じ血にまみれた人間なはずなのに、それでも輝きを失わず自ら光り続ける主君が。恐くないからこちらへおいで、と手を差し伸べる彼が。

ジリジリと近寄ってくる敵兵の足元にくないを放って牽制する。一旦は止まって様子を窺うがすぐにまた前進を始めた。刺してやろうかと考えたが、そんなことしたら一気に襲ってくるので我慢する。思うように動けず苛立った。それに拍車をかけているの後ろで吼えている若虎様だ。

「俺は引かぬ!!」

「そんな怪我して何強がってんの」

呆れた様子で長が言っている。若虎様の胸には獣の爪で引っかかれたような傷が三本ある。それは竜によってつけられた傷で、多量の出血をしていた。長の肩を借りてどうにか立っているくせに、それでも槍を振り回そうとしてるのだから血気盛んだ。長が止めなければ敵陣に突っ込んでいただろう。怪我人は怪我人らしく大人しくしてもらいたい。

「若虎様煩いです」

「う、煩いとは何だ!!!」

「こーらー。こんなとこで喧嘩しちゃ駄目ですよ」

まるで我が家にでもいるような会話だがここは戦場だ。本陣から撤退命令が出た。それを若虎様に伝え、退却していた途中に敵と遭遇。多勢に無勢、こちらは疲労困憊なうえに怪我人抱えてる。

「ここで逃げ出しては武人の恥ぞ!!」

「大将の命令だよ。豊臣軍の奇襲を受けたため体勢立て直す、至急戻られよ。てね」

「そうですよ。だからその足手纏い連れてさっさと行ってください」

「自分が囮になるわけ?うわー格好いい」

「馬鹿なこと言わないでください。冷静に状況判断をした結果、長が連れて逃げた方が生き残る確率が高いので私がこちらを引き受けるだけです」

「そなたを置いていけるわけないだろう!!!」

若虎様の発言にイラッとくる。主じゃなかったら思いっきり殴ってるのに。

人には無茶するなって怒るくせに自分は平気で無茶する。私みたいな一介の忍は沢山いるが、真田幸村は一人しかいないことをわかってない。これ以上ここにいられても邪魔だ。さっさと行けと上司を一睨みすれば仕方ないね、と一笑する。気づいているのだろうか。その笑みがやけに悲しそうなことに。

「さすっ、ぐふっ!!」

「駄目だよ。彼女の覚悟を踏みにじっちゃ」

頑として譲らぬ若虎様の鳩尾に長の強烈な拳が入る。長が何かを呟いたようだが聞こえなかった。クタリと身体の力が抜けた若虎様を長は米俵のように抱える。やっぱ私では無理だ。若虎様は重すぎて持てないから引きずるしかない。仮にも主をそんな扱いするのはまずいだろう。いや、普段だって言いたいこと言ってるけど。

そんな暢気なことを考えていたら敵兵がざわめきだした。それもそうだ。討ち取ったら恩賞を貰えるほどの武将、虎の若子が弱っているのにみすみす逃がすわけがない。だが、殺させやしない。最前列の中央にいた男が踏み出したところで得物を構えた。

「そこから一歩でも前に進んでみろ。八つ裂きにするぞ」

「ひっ!!」

兵達は一斉に後退した。これで少しは時間を稼げただろう。長の背中で伸びている若虎様だが、意識は保ってるようで呻いている。なんと打たれ強い。ゆっくりと首を持ち上げると虚ろな目が私を捉えた。喘ぎながら死ぬな、と何度も繰り返す。否、と首を振ればあと一歩で泣きそうな…そんな表情になる。長は束の間私を見つめてから地を蹴った。

「下ろせ佐助…!!名前死ぬな、死ぬことなど、許さぬ、名前、なら、ぬ、やめっ………やめろォォォォ!!!」

絶叫が遠くなる。必死になって伸ばされた手は届くことがなく、掴む気もなかった。長は人一人担いでいるというのに平時とまったく変わらぬ速さで駆け抜ける。あっという間に二人の姿は小さくなり、消えた。風に遊ぶ赤い鉢巻きと痛ましいほど顔を歪めた若虎様が眼に焼き付いている。

二人が去った空を見つめ続ける私の背後に兵が一人。振り向き様に刃を突き立てれば呆気なく絶命した。単体では勝てぬと判断したようで取り囲まれる。私だけでも討ち取ろうという腹積もりか。随分となめられたものだ。

「一片の悔いもなし………って言ったらさすがに嘘になるか」

始まりがあれば終わりもあるが私の最期は今らしい。だが彼は違う。

乱世も何時かは終結するだろう。平和となった時代が求めるのは若虎様のような人間だ。真っ直ぐ前を見据える直向きな瞳をこんなところで失うわけにはいかない。死ぬなだって?馬鹿を言わないでくれ。貴方のために使えぬ命なら意味などない。

嗚呼、ただの道具として生きていこうと決めたのにいつの間にか絆されていたようだ。それを認めたくなくてわざと名前を呼ばず反発してたのにな………まぁいい。これで心おきなく戦える。

「これより先は一歩も進ませぬ!!それでも進むというならそなたらの命、この苗字名前がもらい受ける!!」





私は忍、主の刃。貴方の役に立てるなら朽ちるのも惜しくない。幸村様。貴方は生きられよ。






を隠して
(それが忍という者です)










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本当は誰よりも主を思ってる少女と、忍である彼女達を誰よりも大切にしている主と、そんな二人を守りたかった忍のお話し。夢主と佐助にとって幸村は光、温かすぎて触れることすら躊躇われる光です。





お題、選択式御題様より
「死ぬなと泣き叫ぶ
おれのために命を捨てるなとそんな馬鹿な真似はやめろ と
周囲の制止を振り切ろうと懸命に振り払おうともがきながらあんたは訴える
(死ぬな?生きろ?)
優しすぎるあんたらしい言葉に瀕死の底にいながら笑みがこぼれた
(死ぬな 生きろ)
(死ぬな 生きろ)
(死ぬな 生きろ)
(死ぬな 生きろ)
(死ぬな 生きろ)
ならば 問おう
お前の為に生きられないのなら一体何の為にこの命 捨てさればよいのだ?
(生きる理由を 失えと?)」使用



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