草木も眠る丑三つ時………まぁ、そこまで遅くないけど、闇は色濃くなった時間。燭台の油に灯した火が朧げに照らす部屋に一組の布団が敷いてある。その上に正座で座って向き合っているのは私と、私の旦那様になった真田幸村様。

晴れて夫婦になったんだから、その…お、お家安泰のためにも若子を作らなければならなくて………頑張って、いや!!そんなに頑張らなくてもいいんだけど!!とにかく私は覚悟が出来ております。出来てるのです。が、当の幸村様が手を開いたり閉じたりを繰り返し大量の汗をかいたまま動こうとしない。その間一切の会話がないので非常に気まずい。この雰囲気が続くぐらいなら早く始めてしまいたい。

「そ、某!!」

幸村様が口を開いた。とうとうくるかと気を引き締め直す。

「真田源二郎幸村と申す!!」

いきなり自己紹介されてしまった。名前ぐらいわかってますよ。いくら私でも旦那様の名前も知らずに嫁いだりするうつけではありません、えぇ。

「ぞ、存じております」

「そ、そうか。某もっと名前殿のことを知りたいでござる」

「私の?」

「うむ」

予想外な言葉に驚く。なんだか、事があらぬ方向に向かっているような気がするのは私だけ?

「始めて会ったのだ。伴侶となる相手のことをよく知るために話すのも悪くはなかろう。どうだ?」

それは私も賛成だった。幸村様のお話は聞かされていたけど、どれも戦場での勇猛さを讃えるような物ばかりで私としては日々どんな風に過ごされているのかを知りたかった。

「私も幸村様のことを知りとうこざいまする」

「それはよかった。ならば何から話そうか。そうだ!この前な…」

こんな風にしてゆっくり会話は始まった。幸村様とお話するのは楽しい。途中から一生懸命になりすぎて喋る機会を与えてくれず、聞き役に徹していたが飽きることはなかった。

好きな食物、休日は何をしておられるか、部下の佐助様、お館様の事。特にお館様の話をするときはキラキラと輝く。

「お館様こそ天下を治めるのに相応しい御方でござる。日の本の国広しといえ、あのように大きな器を持った方はそうそういないでござろう。お館様のもとで尽力を尽くせることは今生の幸せだ。特に………」

幸村様が話しを続けようとして急にやめた。

「幸村様?」

「某ばかり話していた。つまらぬだろう?すまぬ」

シュンとうなだれる幸村様。おっぽと耳が生えていたら垂れ下がっていそうだ。そんな姿が容易に想像出来て、失礼だが可愛いと思ってしまった。

「そんなことはございません。幸村様の事が色々と知れて嬉しゅうございます」

ありのままの本当の気持ちを素直に述べただけなのに、薄暗い部屋でもはっきりとわかるぐらい幸村のお顔は真っ赤になった。頭から煙が上がりそうな勢いだ。

「名前殿は某を喜ばすのが上手だ」

「はい?」

「なんでもない!!」

「でも今何か…」

「だいぶ灯りが小さくなったな」

確実に何か呟いていたがはぐらかされたようでとても気になる。しかし、幸村様の言う通り気付けば灯りは小さくなっていた。

いよいよ、今度こそくるのですね。大丈夫、さっきまでの緊張感はなくなったし、だいぶ打ち解けられたので気持ち的に楽だ。

「よし………今日はもう寝よう」

思いっきり脱力してしまった。えぇー。ここまできてそのような発言をなされるのですか。

布団に潜り込もうとしている幸村様を急いで引き留めと、幸村様は不思議そうにされている。

「寝てしまわれるのですか?」

「眠くはこざらんか」

「眠くはこざいません」

「さりとて今日は疲れただろ。夜も更けたし寝たほうがいい」

「でででも!!」

「名前殿、焦らなくてもいいのだ」

「え…」

「某にはそのように見える」

焦る。確かに私は焦ってるのかもしれない。周りの人達の重圧が単身で知らない地に嫁いできた私には辛い。それをなくすためには早く若子を成すのが一番だ。だから必要以上に事を急いでいた。

「私…」

「大丈夫。周りの目など気にしなくていいのだ。某達はゆっくり進んで行こうぞ」

「それでいいのですか?」

「無論。誰かが何かを言ってきたらこの幸村が言い返してみせようぞ」

幸村様がそっと手を取って二人で横になる。片手は腕枕、もう片手は壊れ物で扱うかのように優しく背中に添えられた。

「幸村様」

「ん?」

「私、幸村様と釣り合えるように精一杯頑張ります」

しばしの沈黙の後、キュっと幸村様の腕に力が入り、隙間がなくなるほどに体が密着する。胸板に顔がくっつき、幸村様の心の蔵の音が聞こえてきた。見えないからわからないけど、多分髪に顔を埋められている。

「名前殿。名前殿が某のために頑張ってくれるのは嬉しい。だが無理はしてくださるな。先程も言ったがゆっくりでいいんだ」

大人びた声音。さっきまで赤面したり焦ったりと大騒ぎしてた人とは思えない。不意打ちに体温は急上昇、きっと顔は赤くなっている。同時に、本当にこの人は私のことを考えてくれてるのだな、と感じ、嬉しくなった。

「はい。ゆっくりと頑張りたいと思います」

「某も名前殿のために頑張ろうぞ」

「無茶はなさらないでくださいね」

「あいわかった」



お国のお父上様、お母上様。名前は幸村様の元で幸せになれそうです。





「幸村様、これからよろしくお願いします」

「某もよろしく頼み申しますぞ、名前殿」





Slow pace My pace
(二人の足並み揃えて歩きましょう)










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数刻後。

「ZZZZ………」

「(そ…某眠れん!!)」



屋根裏から

「(旦那ったらなんて不憫なの!!)」





何このオチ(笑)




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