金造は短気で喧嘩っ早いため売られた喧嘩は必ず買う。そのせいで怪我をすることも間間あるけど、ここまでの怪我をしたことはなかったので吃驚した。唇の端は切れて出血し、首を伝って襟元を赤く染めている。左目は腫れ上がって四谷怪談のお岩さんみたいだ。あっちこっちに青アザ作ってるし、手は血だらけになっている。

「バンドマンなのに手ぇ怪我して!!!」

「いや、これ俺の血やないし」

「そういう問題じゃない!!誰と喧嘩したの!?」

「………」

「金造!!」

「お前の、元カレ」

金造はばつが悪そうに視線を逸らす。まさかの喧嘩相手に私は混乱した。元カレって…1ヶ月前に別れた元カレのこと?

元々、彼のことは好きだったわけではない。友達に紹介され、そのまま流されて何とな無く付き合った。全てが中途半端だったから上手くいくわけもなく、浮気された挙げ句にフラれた。別れたからというよりは自分自身の不甲斐なさに落ち込んだ私を、金造はアホやアホや言いながらも慰めてくれたから、そのおかげで立ち直ることが出来たのだ。

「何で喧嘩したの?」

「お前んことなんやかんや言っとったから、頭にきてん」

「だからって喧嘩することないでしょう!!私なんかのためにこんな怪我までして…」

金造が視線を私に戻す。先程までとは違う表情に肩が竦んだ。眉間に皺を寄せて眼光が鋭くなっている。妙な威圧感を放っていて恐い。

「な、何怒ってるの…?」

「私なんかのためやってぇ?どアホ!!俺の惚れた女に向かって『なんか』なんて言うなや!!それに惚れた女をボロクソに言われとんのにキレん男がどこにおる!!!」

金造がキレた。落ち着かせないと面倒なことになるけどそれどころではない。どさくさ紛れてえらいこと言われた。最初は意味がわからんくて唖然としたが、金造は私のことを好きなんだって理解した途端、目頭が熱くなって視界がぼやけた。

いつからか私のことが好きだったか何て知らないけど、昨日今日のことではないはず。だとしたら好きでもない男と付き合ってる私を見てどんな思いになったんだろ。きっといっぱい傷つけた。それなのに、金造の気持ちも知らないで私は甘えて…むしろ私のことを一発殴って欲しい。

「アホでごめんなさい」

「ホンマや。好いてもいない男と付き合うなどアホ」

「ううっ…」

「おまっ、泣くことないやろ!!別に怒ってへんから泣き止めや!!」

焦った金造に肩を掴まれた。そのまま引き寄せられて彼の胸にダイブ。いきなりのことにあわあわしていると手ぇ背中に回せ、と耳許で囁かれる。恐る恐る背中に手を回すと金造の身体が跳ねた。多分、背中にも怪我していて、ちょうどその部分に触ってしまったのだろう。カッコつけるから!!

無理をさせてはいけないと離れようとしたが金造が腕に力を込めて阻止する。どうやっても抜け出せなくて、行き場のない手は迷った末に金造の服を握りしめることで落ち着いた。

「本当にごめんね金造」

「名前は俺のこと全然意識せえへん?好きにならん?」

「…正直、揺らいでる」

金造は短気で粗暴だけど嘘をつけない性分だから浮気はしないだろう。というか出来ない。良くも悪くも真っ直ぐだし、ちゃんと大事にしてくれると思う。金造の彼女になった子は幸せになれると思うんだ。そんな金造が私のことを好きだと言ってくれて胸が高鳴った。けど、それは都合が良すぎる。金造の優しさ利用している気がしてならない。

どうすればいいかわかんなくて、ぐるぐるしてる私の頭を金造は片手で抱き込んだ。

「やったらそのまま落ちてまえ。俺は柔兄みたいに器量やないし、廉造みたいに女を喜ばせることも出来んけど、惚れた女を貶されたら喧嘩するぐらいの根性はあるえ。名前一筋やから浮気かて絶対せえへん!!絶対、ぜぇーたい幸せにしたるから俺のとこにこい!!」

しっかりと抱き込まれてるから顔は見えない、見えないけど必死なのは凄く伝わってきた。必死すぎて後半がプロポーズみたいになってるのに本人は気づいてない。

「金造、力みすぎ」

「…力むに決まっとるやろ」

名前も知らん男にかっ浚われるのはもう嫌や、と弱々しくなった金造に思わず吹き出した。

こんなにも想われているのに落ちないなんて無理だ。もうごちゃごちゃ考えるのはやめにしよう。金造は真っ直ぐな想いをくれるんだから、私も心のまま素直に応えよう。ねぇ、そんな心配しなくても大丈夫だよ。もう私は金造に落ちちゃってるんだから。





その恋に落ちる、白旗のご用意を











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我が家の金造はアホの子だけど男前です(`・ω・´)


お題、誰そ彼様より
「その恋に落ちる、白旗のご用意を」使用






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