許してくれ、お前を助けるためなんだ。ごめんね、お父さんもお母さんも貴方が大事なの。父さんが俺を羽交い締めにして母さんがそれを見せようとするから俺はきつく目を瞑った。大地!!見るんだ!!と、父さんはもの凄い剣幕で、お願いよ大地!!と、母さんは必死に懇願する。それでも俺は抵抗した。見てしまったらどうなるか知っている。**は泣き虫で俺がいてあげなきゃいけないのに。嫌だ、そんなの絶対嫌だ!腕を滅茶苦茶に振り回していると誰かに掴まれた。慣れ親しんだ柔らかさと温かさに薄く目を開いた。俺の手を握っていたのは**で、へらっと笑うから気が抜けた、その時だ。**が隠し持っていたそれを掲げた。明滅を繰り返す青い光に魅入られるように、一度見てしまったらもう目が離せない。まるで消しゴムでもかけるように大切なものが消されていく。
「やめろよ!!**!!」
膝から力が抜けて父さんに寄りかかる。重くなっていく瞼を必死にもち上げれば**は顔をくしゃくしゃにして涙を流していた。バカ、泣くぐらいならこんなことすんな。**が何かを差し出したけど、俺には見えなかった。『だいちゃん、やくそく。だいちゃんはわたしが――――』
しとしとと、静かに雨が降る日のことだった。押し入れから古ぼけた写真を見つけた。家族写真のようだ。場所は不明だけど立派なお屋敷を背景に撮っている。映っているのは若い父さんと母さんに小さな俺。そして父さんの左隣には見知らぬ初老の男性がいた。柔和に笑んでいるこの人は誰だろう。まじまじと見つめてからひっくり返す。
19××年××県××群阿座河村。父さんと俺と栞に大地。
父さんの字だ。父さんの父さんということはこの初老の男性は俺の祖父だろう。あれ?そういえば俺って祖父のことを何も知らない。聞かされたこともない。今の今まで何とも思わなかったけど、それっておかしなことだ。里帰りとか一回もしたこと無いぞ。「あざがわむら」と読むのだろうか。記された場所に憶えはないけど、猛烈に気になった。両親に写真のことを訊けば蟠りは解消されるだろうか。しかし、意味深げに隠されていたのに問うのは憚られた。かといって、見なかったことも出来ず、俺はその写真を密かに所有した。
俺はあの場所に行ったことがあるはずなのに何も憶えてない。父さんも母さんはどうして隠しているのだろう。あの写真のことを思い出すと、胸がざわめくのは何故だ。日に日に疑問は増していく。答えを知りたかった。
「なぁ、大地。今度の連休は部活も休みだけどなんか予定ある?」
「俺は旅行」
「家族旅行?いいな、何処行くの?」
「いや。そういうわけじゃないちょっと気になることがあって親には内緒で調べに行くんだ」
「親に内緒って…なんかあったのか?」
「うん…」
「………よし、決めた。俺もついてく」
「は?」
「どうせ家にいても暇だし、調べ物するなら人数多いほうがいいべ」
「そんな気軽に言うけどな、遊びにいくわけじゃないし、山奥にあるかつまんないと思うぞ」
「べつにいいよ。俺が勝手についてくんだし。それに山とかわりと好きだから大丈夫!!」
「そんなに行きたいのか?」
「んー。というか、最近の大地は変だ」
「え?」
「なんか部活中でも上の空だし、たまに思い詰めたような顔してるし。今回の旅行の件が関係してんだろう?一人でいかせるのも心配だなぁ。あ、勿論、暇だからというのもあるけど」
「スガ…悪い。そんなつもりはなかったんだけど」
「何があった知らないけどあんま思い詰めんなって。どうしても行くって言うなら俺も付き合うよ。一人より二人のほうがいいだろう」
「ありがとな。お前がそう言うなら一緒に行くか!!」
「行くべ!!」
休みにはいると俺とスガは電車を乗り継ぎ、阿座河村へ向かった。おいで おいで 約束を 果たしに
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**はあえてこの表記にしています。原作を知っている人ならわかるはず。