目と鼻の先を行ったり来たりする黒の衣に鼓動は早くなる。距離が詰まる度に息を潜めた。長いような短いような攻防戦を耐えたかいあってオズのいる場所とは正反対の方向へと離れていく。完璧に姿が消えたのを確認してから吐息を零した。
ようやく、ようやく勝てたんだ!!
そう思ったのに………
「見つけましたよオズ様」
背後から声がかかる。何で?いつの間に??と、困惑しなが振り返ればにこやかに笑う名前が立っている。瞬間、オズは己の敗北を悟った。
「ま…また見つかったーーー!!」
嘆く主人を見守る従者の名前。彼等はギルバートとエイダを加えて隠れんぼをしていた。よくやる遊びのうちの1つだが、名前が鬼になった時はオズが1番最初に見つかるのが定番だった。けしてオズが隠れるのが下手なわけではなく、むしろその逆で、鬼がギルの時は何時間経っても見つからない。だからこそ悔しいのだ。何で自分が真っ先に見つかるんだ、と。
「…何回目?」
「38回目です」
具体的な数字を教えられ尚更落ち込む。しかも今回はいつもより見つかるのが早かった。広大な庭は一周するだけでも大変なのにどうしてあんな短時間で探し当てられるのか不思議でならない。
「あー悔しい!!」
「では、行きましょうか」
ようやく立ち直ったオズを連れて残りの二人を探しに行く。オズと会話をしながらも名前は抜目なく辺りを探索している。ギルとエイダ(特にギル)はわかりやすいので5分とかからずに見つかる。
「名前はさー何でいつも俺を最初に見つけるの?」
「私はオズ様の従者ですから」
「へ?」
「何を差し置いても1番に主人を見つけなければなりません」
「隠れんぼは見つかったら負けなんだけど…」
「例え遊びであっても妥協は出来ませんね」
「えー…それにギルは俺のこと見つけられないじゃん」
「あの子はまだまだ詰めが甘いです」
そう彼女は言ったがギルの場合は探すのが下手なだけな気がする。その代わり見つけてもらうのはとっても上手だ。
二人の視線の先には掃除の道具を入れる箱が。その箱から布の一部がはみ出している。それはギルの服で中に隠れているのは明白だ。
「マヌケだな」
「反論出来ませんね」
オズが出れないように入口を塞いでしまおうかと悪行を企らむ。可哀相だからやめてください、と諌めてから名前は彼を追い越し身体を反転させて向き合った。
「名前?」
「オズ様は私の大切なマスターです」
「え、何?急に改まっちゃって。なんか照れ臭いなー」
「ふふ…従者が主人を見つけられないなどということはあってはなりません。ですから、」
何処にいようと…私は必ず貴方様を見つけだします。
(それは成人の儀が執り行われる1ヶ月前のことだった)
帰ってきたら10年の年月が流れており、彼女も例に漏れず成長していた。背は伸びたし大人びている。けど優しい眼差しや柔和な微笑みはオズがよく知っているそれと同じだった。
「名前…?」
「今回ばかりは降参ですね。やはりオズ様は隠れるのがお上手です…時間はかかりましたが、私はオズ様のことを見つけましたよ」
10年かかった。ただ、それだけのこと。
Hide-and-seek
(やっと見つけました)
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Pandora Hearts夢。自給自足です。設定は同じで色んなキャラがの話しを書いてみたいです。