この世は不思議で溢れているが、私の身近にも存在する。私にとっては難解な数式の問題や読解不能な古文の問題よりも不思議だ。彼はかっこいいけど、彼以外にもかっこいい人はごまんといる。例えば彼の隣にいるあの人とか。彼はとても目立つ存在だからあの人が埋もれてしまうのは仕方ないけど、それでも誰もあの人の魅力に気づかないのは不可解である。本当、不思議だ。





「この前の試合凄かったよねー」

「わかるー!!超かっこよかった!!」

放課後、教室で持ちよったお菓子を広げて花の女子高生らしく、きゃぴきゃぴとお喋りに興じていた。友人二人は及川君のファンなため、専らの話題は及川君である。やれあの時の試合のスパイクがかっこよかったとか、やれサーブ練習中のあの表情が素敵だとか次々と出てくる。適度に相づちを打ちつつ新発売の抹茶チョコレートを摘まむ。お、なかなか美味しい。これは当たりだ。

「名前もかっこいいと思うでしょ!!」

「あーかっこいいよね」

「なんか軽いんですけど」

「ちゃんと思ってるよ。でも、なんか違うんだよね」

及川君は誰が見たってかっこいい。私も思うけど、今一彼女達みたいに熱をあげられない。何もかっこいいのは及川君だけではない。

「えー及川君にときめかないの?じゃ、名前がかっこいいって思う人いる?」

「岩泉君。ほら、及川君とよく一緒にいる人」

同じクラスの岩泉君の名を上げると間が空く。友人達は視線を天井に向けて岩泉君の姿を思い描こうとしているようだが、結局は浮かんでこなかったようで、半笑いで誰?と、訊いてくる。溜め息が出た。目撃してるはずなんだけどな。

「バレー部の副主将。髪がツンツンしてて、目付きが鋭い人」

「あ!しょっちゅう及川君をどついてる人!!」

「あの人か。ちょっと乱暴だよね」

どついてる人って…間違ってはいないけど、それしか覚えてないの?彼女らの愛しの及川君がボコスカやられるので印象が悪いようだ。

「へー。名前はああいう人がいいんだ。どこがいいの?」

本気でわからないという風に訊いてくるのでカチンとくる。ペットボトルのお茶を半分ほど飲みほしてからドンッ、と強めに置くと中の液体と友人達の身体が大きく揺れた。

「え、怒った?」

「怒ってない。けど、及川君に霞んでるだけで岩泉君だってイケメンじゃん。イケメンというか男前?精悍な顔つきだよね。及川君と違って愛想はないけど笑うと雰囲気変わるから!!お昼休みにさ、バレー部の人と腕相撲してるんだけど勝った時に笑顔見れるよ。何より!!岩泉君だってバレー凄いじゃん!!相手のブロック弾いて点いれてさ!!何を隠そう私、試合を見て岩泉君かっこいいって思うようになったんだ!!」

「うん、わかったからもういいや。よく見てるね…」

「自然と目に入る」

周りが及川君及川君と騒ぐ中、岩泉君だってかっこいいと言い出せずに悶々していたので吐き出せてすっきりしたけど、友人達は固まっている。引かれただろうか。

「本当に怒ってるわけじゃないから、ごめん、引いた?」

「違う。後ろ」

「後ろ?」

私の後ろにあるのは出入り口だ。振り向くとドアを開けた状態のまま硬直している岩泉君がいた。屈んで岩泉君の腕の下から教室を覗いている及川君はニヤニヤしている。

「岩ちゃんに春がきた!!きゃー!!」

「うっせぇボゲェ!!」

岩泉君の肘うちが及川君の脳天に炸裂した。きゃー!!と、友人達が悲鳴を上げる。沈む及川君と、詰る岩泉君。岩泉君、本人がいる。

「照れ隠しにしては激しすぎる」

「キモいこと言ってんなよキモ川」

「さすがにキモ川は酷くない!?」

「わ…私!!用事おもいだしたから行ってくる!!」

「名前!?どこ行くの!?」

及川君と岩泉君が会話してる間に友人達を放って逃走する。うわぁぁぁ本人がいると知らずにあんなに語って!!絶対、気持ち悪いやつって思われてる!!クラスメイトなのに明日からどうしよう!?とにかく少しでも離れたくて廊下を走っていると背後からドタドタと激しい足音が聞こえてきた。

「待て!!逃げんな!!」

「うぇ!?」

何故か岩泉君が追いかけてきた。いつもはかっこいいお顔が必死の形相になってて流石に恐い。全速力で逃げたがあっという間に捕まった。私がゼェハァしてるのに対し岩泉君は平然としている。これが運動部と帰宅部の差か。

「大丈夫か?」

ぎこちないけど背中をさすってくれる。岩泉君、やっぱ優しいな。

「大丈夫、ありがとう。と、ところで岩泉君はどうしてここに?」

「苗字がいきなり逃げるからだろう。何で逃げた?」

「言わないとダメですか」

「この期に及んで言わない気かよ」

「うっ。うぅ…だってよく知りもしないクラスメイトが色々言って気持ち悪いかと…ごめんなさい」

捕まってしまってはこれ以上の逃走は不可能で、観念して洗いざらい吐けば岩泉君は一瞬で顔を赤くした。視線が泳ぎ始めたので目が点になる。えっと、何だろうその反応。

「かっこいいとか言われて嫌がるやついないだろう。つか、その理屈でいくと俺も気持ち悪いやつになるし」

「え?」

「俺が調理実習で四苦八苦してた時に手伝ってくれただろう。失敗しても馬鹿にしないで笑ってフォローしてくれて、あの時はマジ助かった。そこからちょっと苗字が気になって…あと、たまに試合見に来てるよな。一生懸命応援してくれてるからよく覚えてる。それに、あー………可愛い、って思ってた。友達と話してる時の笑顔が特に」

最後は蚊の鳴くような声だったけど、しっかり聞こえた。面と向かって可愛いなんて言われたことがなくて顔が熱くなる。さっきの岩泉君もこんな気持ちだったのだろうか。こういう時はどうすればいいの?ありがとう、と言えばいいのか…わからない。及川君来てくれないかな。彼ならかっこいいとか言われ慣れてるから、どう対処すればいいか知ってるはず。助けてください。

願ったところで救世主は現れず、二人して顔を真っ赤にしながら廊下に突っ立っていた。





極上の甘い言葉を用意致しました










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か・ゆ・い!!初々しいにもほどがある!!もっと岩ちゃんを男前にしたかったんですが、これはこれでいいかなぁと。hqはこれぞ青春って感じがいいですね^^



お題、誰そ彼様より
「極上の甘い言葉を用意致しました」使用





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