悲劇のヒロインぶるつもりはないが、悲惨な人生を辿ってると言ってもいいだろう。純血の東洋人のため、金銭目的のやつらに押し入られ両親を殺されてからは各地を転々としてきた。子供のいない老夫婦に引き取られ、安住の地を手に入れたかと思ったら、老夫婦は元から私を売る算段でいたらしく、引き渡される寸前に命からがら逃げだしたこともあった。餓死一歩手前とか、狼に食われそうになったとか、夜盗に襲われたとか。孤児院にたどり着くまで波瀾万丈だった。

「孤児院でもあんまりいい扱いされなかったし、訓練兵団なら生活が保証されて尚且つ安心!ってことで入団して今に至る」

「それは…苦労したんだな」

「そこそこに」

「色々あったのにお前の性格がねじ曲がらなかったなことに感心する」

「私より大変な目に遭ってる人だっているでしょう。それよりも、問題はこれからなんだよ。何処に行けばいいの私」

膝に手をついて項垂れるとライナーから憐憫の籠った視線を注がれる。訓練兵団に入団して落ち着いた生活を送れたが、それもあと3ヶ月で終わる。どの兵団を選ぶかは超重要事項である。そのため、ぶっ倒れるんじゃないかってぐらい悩んでいる。今まで誰にも打ち明けなかった身の上を暴露して愚痴ったのは悩みすぎたせいで気が滅入っているからだ。相手がライナーだったのは彼は面倒見がよく、頼りがいがあるから。人気の少ない場所にあるベンチに座って話しを聞いてもらっている。

「それこそ憲兵団に入って内地に行けばよかったんじゃないか?元々成績は良いんだから、その気になれば10位以内に入れただろう」

「ライナー、それは自殺行為だよ」

「自殺行為?」

「上官から貴族への貢ぎ物にされて終わると思う」

「………すまん」

「いや、いいよ」

ライナーが深々と頭を下げるが彼が謝るようなことではない。むしろ、それが憲兵の実情なんだから。

内地に行くなんて羊が狼の群れに飛び込むようなものだ。はなから選択肢にはなかったので訓練も程々に頑張っていた。残されたのは駐屯兵団と調査兵団だが、巨人と戦う勇気など持ち合わせていない。そうなると駐屯兵団一択になるが、大人しくしていようがこの容姿故に目立つだろう。噂を聞き付けた貴族や変なやつらの目をつけられたら最悪だ。こう考えると訓練兵団は本当に居心地が良かった。訓練兵団の外部と接触がほとんどない閉鎖された空間が私を守っていたのだ。

私だって本当は内地に行きたかった。安心で快適な生活を送りたい。だけど、それは私の身の上が許してくれない。儘ならぬことが多すぎて乾いた笑いが漏れる。

「壁の中に私の居場所なんてないのかもね」

投げやりに呟くとライナーは思いもよらないことを言い出した。

「だったら、壁の外へ行けばいいじゃないか」

「巨人に食われろと?」

「違う。一緒に俺の故郷に行こう」

ライナーが私の腰を掴んだかと思ったら突然立ち上がった。ライナーに抱えられて身体が浮く。

「そうだ。俺はナマエを連れて帰れるし、ナマエは安心して暮らせる。良いことづくめじゃないか!!お前をどうするか悩んでたのがバカみたいだ」

ぱぁぁ、と表情を輝かせたライナーは興奮したように捲し立てると私を抱えたまま回りだした。こんなはしゃいだライナーは見たことない。ライナーと共に回転しながら私は疑問符を撒き散らす。

ライナーの故郷には巨人がわんさかいるのにどうやって帰るんだろう。将来的な話しをしているのだろうか。私は現時点の話しをしているのだけど。それにライナーはどうして私のことで悩んでたんだ。説明してほしい。あと、下ろして。

「ライナー、ライナー。ちょっとストップ」

「どうした?」

声をかけながら肩を叩くと効果があったようでライナーが止まった。私を見上げてきょとんとしている。どうしたは私のセリフだ。

「どうしたのライナー。なんか変だよ」

「おかしくなんてないさ。色々とやるべきことがあるから今すぐっていうのは難しいが、時が来たら必ず連れてってやる。それまでは自力で頑張ってもらうしかないが…ナマエの危機的状況に陥った時の生存本能は凄まじいから大丈夫だな。必ず一緒に帰ろう」

「ライナー?」

「何も心配することはない」

話しが噛み合わないどころか意味が通じない。ライナーは甘ったるく微笑んでいる。その笑みは仲間に向けるものではない。背筋をぞわぞわしたものが這い上がってくる。ライナーってこんな人だっけ?彼の人物像が徐々にぶれていく。

「ああ、うん、そっか。頼りにしてる、よ…?」

おかしいのはわかっているがそれ以上は踏み込んではいけないような気がしてライナーに同調しておく。本能的な勘、この感覚に何度も助けられたのだ。

「ああ、任せてくれ。必ず一緒に帰ろうな」

ライナーは漸く下ろしてくれたが、けして離してはくれない。上機嫌なライナー抱き締められたまま、大人しくするしかなかった。この判断は間違いだったのを後になって知る。





数ヶ月後、共に調査兵団入りしたライナーは実は鎧の巨人で、有言実行とばかりに彼に浚われることになる。





劣悪ハッピーエンド









--------------------
表面上は普通なのに中身がちょっとおかしいライナー。こういう人が一番恐いですね。



お題、レイラの初恋様より
「劣悪ハッピーエンド」使用





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -