直属の上司から預かった書類を届ける簡単な雑務だったのに、いざ行ってみれば調査兵団のエルヴィン団長に持っていくように指示された。言われた通りにすると今度はリヴァイ兵長へ、何故か私が運ぶことになって兵長がいる古城へ馬を走らせた。兵長の鋭い眼光にびくびくしながらも書類を渡し、任務を終えたので帰ろうと外に出たところでエレンと鉢合わせた。近くの木に馬の手綱がくくりつけてある。世話をしていたようだ。どうして、エレンがここにいるの。予期せぬ人物の登場に心臓が止まりそうなぐらい驚いた。エレンもぽかんとしている。私は駐屯兵団であるためエレンがどういう扱いを受けているか知らなかった。人類の希望であり不安分子でもあるエレンが人類最強と呼ばれるリヴァイ兵長の監視の元、古城に隔離されてもおかしくはない。だから兵長はこんなところにいたのか。ちょっとした疑問が解けた瞬間だった。それにしても、ただでさえ調査兵団には近寄りたくなかったのに、よりによってエレンに会ってしまうなんて。

「リヴァイ兵長に客って聞いてたけどナマエだったのか」

馬を撫でる手を止めて近寄ってくるエレンに後退ってしまった。足を止めたエレンは悲しそうな顔になる。生まれた頃から一緒にいるエレンを拒絶したのは初めてだ。

「わ、私は…」

「知ってる。ナマエは駐屯兵団に行ったんだろ?この前ミカサ達に会ったんだけどその時に聞いた。それにほら、ここ。俺達とは違う」

エレンはとんとん、と自分のジャケットのワッペンを指で叩いた。エレンは盾に二対の翼、私は盾に薔薇。思わず自分のワッペンを隠す。後ろめたい気持ちで一杯になる。

炎の水、氷の大地、砂漠の平原。本当かもわからない嘘みたいな話し。自分の目で確かめたくて、外の世界へ行くことが夢だった。夢を現実にするために調査兵団に入団して巨人を駆逐し、自由を勝ち取る。その一念があったからこそ辛い訓練にも耐えられた。描いた夢に嘘なんかない、本当だった。でも、私は知ってしまった。

「私は、戦えないよ」

情けないほどに声が震える。エレンの表情が険しくなった。今でも思い出す。打ち捨てられる肉の塊は切磋琢磨した友人だった。巨人に飲み込まれたのは頼りになる先輩方だった。逃げ惑う人々は虫けら同然の扱いだった。私はわかっていなかった。夢ばっかり追いかけて何も見てなかった。いざ現実に直面したら恐くなって逃げ出した臆病者だ。死にたくない、夢のために命は投げ出せない。

「弱くてごめんね…」

「………ナマエ、」

エレンが引き締めていた唇を緩めて口を開いた。私を捉える瞳には侮蔑も憤りももない。何処まで真っ直ぐだ。

エレンは道具を持つと中に入ってしまった。私も兵舎へ帰ればいいのに、足が地面に縫い付けられたかのように動けない。直情型のエレンが驚くほど冷静で、私を混乱させる。どうして、そんなこと言うのエレン。





「お前が弱いのなんて昔から知ってる。ナマエはそれでいい。俺が一匹残らず巨人を駆逐してやる。だから、外の世界に行くって夢だけは諦めるな」



私にはもう、君と同じ夢を見る資格はないのに。





あの夢の行方は










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お題、秋桜様より
「あの夢の行方は」使用





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