駄目だよ。化け物なんだから。





「ドテチン」

「ドテチンって呼ぶな!!って、お前ここ二階なのになんで窓の外から来てんだよ!!」

「シズちゃんに見つかると面倒でしょう。ところでシズちゃん誰と電話してるの。まさかと思うけど…女?」

「あ?あぁ。幼馴染みだとよ」

「へぇ!!付き合ってんの?」

「いや、そこまではいってないらしい。お前、知らなかったのか?」

「うん。知らなかったなぁ」


家族以外で心許せる相手がいたなんて。

ドアの廊下側にもたれながら静雄は電話をしていた。角度的にあまり見えないがそれでもわかる。言葉を交わし相槌を打つ静雄は微笑んでいた。

赤の他人がシズちゃんの寄り所になってる。あんな穏やかな顔をさせる。へぇ、凄いな、これは使えるな。と、臨也はひっそり笑った。










化け物の幼馴染みなんだからそれなりに強いか、もしくは特殊な力でも持っているのかと思っていたが臨也が調べた限り、名前はいたって普通の人間だった。実際に会ってもその印象は変わらない。

「どうも初めまして、俺は折原臨也だよ。シズちゃんから名前ぐらいは聞いてるでしょう?」

最後の言葉に反応し女は大きく身体を震わせた。どうやら自分はろくなイメージがないらしい。どうせ静雄があることないことを吹き込んだんだろうけど。

「そんなに恐がらないでよ。別に惨いことするつもりはないんだからさ」

「貴方はろくな噂を聞きません。関わると悲惨な目に遭う」

「えー酷いな。あっちが俺を利用するから俺も利用しててるだけだよ。等価交換ってやつ?何の代償も払わないで得しようなんてそんな甘く出来てないよ、世の中は。持ちつ持たれつでやってるんだからいいじゃん」

臨也は持論を唱えつつ名前へ近づく。誰もいない路地裏に追い込まれた名前は少しでも臨也から離れようと1歩1歩後ろへ下がる。しかし、それに合わせて臨也も前進するので二人の距離は広がらずに、名前の身体は壁にぶつかり逃げ場を失った。

「っ、最低!!」

「それは何たいしてかな?」

今、この瞬間に臨也の心はどうしようもなく弾んでいた。名前が傷つけば静雄はそれ以上に傷つくからだ。

名前のことは高校時代から知っていた。違う学校に通っていたが、その気になればちょっかいをかけることは可能だった。それをしなかったのは最高のタイミングを狙っていたから。二人が思いあえば思いあうほど、より絆は強くなり、その分に比例するよう静雄に深い傷を作れる。だからこそ、長い間息を潜めて待っていた。

待っていたのだ、この時を。

「君も可哀想だよね〜」

「可哀想?」

「そう。シズちゃんと幼馴染みなばかりにこんな目に遭ってるんだから。もしかしたら彼は化け物じゃなくて疫病が「それ以上喋らないで!!」

流れるように言葉を発していた口を閉じる。名前が、怯えを隠し虚勢を張ることしか出来なかった女が、はっきりとした怒りを表していた。

「自分の力が疎ましくて憎くて…制御が出来ない度に傷ついて苦しんでる静雄はれっきとした人間よ!!本当の化け物は人の心を利用して平気で踏みにじるあんたみたいなやつよ!!!」

静雄を化け物と言ったことが彼女の中の恐怖心を塗り潰した。怒りのままに臨也を罵倒する。自分を使って静雄を傷つけようとする卑怯なやり方が名前は許せなかった。

「………」

「何か言ったらどうなの!!それとも全部本当のことで言い返せないわけ?!」

「………ふはっ」

「はっ?」

「ふっ、ふふ…ふはははははは!!!」

池袋の喧騒すら届かない路地裏に響くのは心底愉しそうな笑い声。名前を襲ったのは困惑、次いで恐怖だ。それは得体の知れない物へ対しての恐ろしさ。けなされて怒るならまだしも、何故笑っていられるのだ。

「シズちゃんじゃなくて俺が化け物呼ばわりされるとは思わなかったよ。あ、でも人によっては俺のほうが化け物になるのか。なるほど…ふっ、あはは!!本当面白いなー人間って。これだから俺は人間が好きなんだよ!!人ラブ!!あはははははは!!!」

大袈裟なほどの身振りをつけ、何かに取り付かれたかのように臨也は笑い続ける。名前はそれ以上逃げられないのを知りながらも下がろうとして壁に背中を押し付けた。

「来ないで!!」

「嫌だね」

勿体振るようにゆっくりと、しかし大股で歩いてくる臨也から逃げる手立てはないか考える。唯一の逃げ道は臨也の背後。大通りに出れれば人込みに紛れ込める。しかしそうするためには臨也の脇を通り抜けなければならない。走っただけでは簡単に捕まってしまうだろう。バックでも投げて怯んだ隙ににげ「はい、時間切れ」

気付けば臨也が目の前にいて名前は混乱する。何故、どうして?考えることに没頭し気付かなかったのか。いや、気は配っていた。臨也が瞬間移動のように一瞬で真ん前に立ったのだ。

「俺はシズちゃんを苦しめたくて君に近づいただけで君自身はどうでもよかったんだけど…今は名前自身に興味を持ってるよ。だから仲良くしてよね」

臨也は声すら出せない名前の頬に手を添えた。臨也を目の前にして名前が思い浮かべるのは強すぎ力を誰よりも憎んでおきながら、その力でいつも助けてくれた幼馴染み。

静雄静雄静雄静雄しずおしずおしずおしずおしずおしずおシズオシズオシズオシズオシズオ!!!

狂ったように静雄の名前を叫ぶ。だけど、それが声になることはない。名前を見つめる赤に全てを持って行かれる。動けずにいる名前に臨也は顔を近づける。唇と唇が触れる直前に動きを止めた臨也は呟いた。

「残念。邪魔が入った」

「臨也ァァァァァァ!!そいつに触れるなぁ!!!」

跳躍した瞬間、今まで臨也がいた場所に標識が突き刺ささる。後方に気をくばりながらも名前の隣に着地し、またね、と一言残して逃げた。同時に駆け寄って来たのは彼女が待ち望んでいた幼馴染みだ。しかし名前は反応を示さない。脳裏を埋め尽くすのは赤目の青年。幼馴染み―――静雄に肩を揺さ振られ、あらん限りの声で名を呼ばれても名前にはどこか遠い出来事のように思えた。





の呪縛
(囚われたら逃げられない)










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イザヤンでネタを考えるとこんなのしか出てこない←





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