「心配だねぇ」
廊下を歩いていたら、一言。おねね様かと思えばおねね様の妹君である名前様だった。言い方があまりにも似ていたため一瞬おねね様本人かと思った。
「人の顔を見る度にそのことを言うのはやめてください」
「見る度に思うのですから致し方ありません」
スパッと切り返されて俺ともあろう者がたじろいでしまった。
秀吉様とおねね様に紹介されて初めて会った時から名も名乗らず、じっーと俺の顔を見つめて心配だねぇ、と…第一声から言われていた。
衝撃を受ける俺や秀吉様などおかまいなしにおねね様はさすがあたしの妹!と、誉めていたことが今でも忘れられない。ついでにおねね様は何にたいして誉めていたのかわからない。
それから食事の時でも、雑談してる時も、勉学を教えて差し上げている時も、顔を見れば
「心配だねぇ」
極め付けは姉妹声を揃えて
「「心配だねぇ」」
いい加減にしてください!!と、叫びたくなった。
「それより何をやっているのですか貴方は」
「庭の掃除ですよ」
「見ればわかります。わざわざ貴方様がしなくても他の者がしますよ」
「皆さん忙しいのですから私がやります」
名前様は自分で出来る事はすべてやろうとする。たが、秋も深まるこの季節、いくら掃除しようとも後から後から降ってくる枯葉はなかなか片付かない。無駄に体力を消費するような事は女中にでも任せればいい。この方は自分も羽柴一門だということを自覚しているのだろうか。
「軽はずみな行動は慎んでください」
「掃除が軽はずみな行動ですか?」
「貴方様がやらなければいけないということはないでしょう」
「いいじゃないですか。別に」
「なりません」
「三成様は頭が固すぎますよ。そのような事では友が出来ません」
「友など必要ありません」
本当に必要ないからそう言っただけなのに、名前様のお顔が強ばってしまった。俺は名前様の気に障るようなことを言ってしまったのだろうか。
「名前様」
「三成様。そのように寂しいことを言わないでください」
「寂しい?いったい何のことですか?」
静かに歩み寄ってきた名前様。屈んでください、と言われ、わけのわからないまま素直に屈むと名前様の手が俺の頭に伸びてすぐに離れた。その手には一枚の枯葉が。
ああ、そういえばさっき左近に鉄扇投げ付けたら勢い余って茂みに落ちたので、取りに入ったな。左近に取らせればよかった。
「友は嬉しいことも悲しいことも共有し、支え合い、片方が間違った道を進もうとしたら友情を壊してでも止めてくれるものです」
「………」
「素晴らしきものなのですよ」
名前様は葉っぱをいじりながら困ったように笑った。おねね様と名前様は姉妹だけあって言動が似ている。しかし、この困ったような笑みはおねね様にはない名前様特有の物だった。
「それでも私には必要ないのです」
「私が三成様のお顔を見るたびに心配だと言う理由がわかりますか?」
「さぁ?わかりかねますね」
「何かあった時に三成様が孤立してしまいそうで心配なんです」
上辺だけでなく、本気で心配してくださってると感じとれた。まったく、どうして姉妹揃ってそんなに他人の世話を焼きたがるんだ。貴方が心配してくれるのは石田三成だからだと自惚れてもいいですか?
「そんなに心配だと仰るなら貴方が私の隣にいればいい」
無意識のうちに発していた。しまったと思えど時遅く、名前様の耳にも届いたようで意味をはかりかねてかきょとんとしている。
「私が三成様の友になるのですか?」
普通だったらそうとらえるだろうが、俺は名前様に友になっていただきたいわけではない。彼女はおねね様の実妹で秀吉様の義妹。こんなこと言っていいわけないが、今はだけは目を瞑ろう。勘違いしてもらいたくないのだ。
「貴方様なら友でなくても私の隣にいる資格があるのです」
「そうですか」
これでも勇気を振り絞ったというのに名前様の返事は曖昧で、挙げ句、悩むような素振りを見せ始めるから居た堪れなくなった。視線を名前様から右左に揺れ落ちてくる一枚の枯葉に移す。それが着地したのを見届けてから名前様に視線を戻す。
「実は言われなくてもずっーとお傍にいようと思ってました」
そう言って満面の笑みな名前様に俺は柄にもなく照れてしまった。
The worries which disappearde
(もう心配しなくて済みますね)
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ツンデレ三成です。ツンデレ属性なキャラの夢を書くのは初めてです。ツンデレになってるかどうかは置いといて(笑)
「三成様…お顔が赤いですが如何なされました?」
「赤く色付いた紅葉を見ていたらこうなったんです!!」
「えぇ!?!?」