*夢主の出番がない上にオリキャラ視点で話しが進みます。個性のないオリキャですが、オリキャラが苦手な人はご注意ください。





樹齢百年はありそうな立派な大木の根本に座り込んだ年若い女が歌っていた。それは、歌というより祈りの言葉のようだった。





「婆さん、飯くれ」

「あいよ」

世話になってる婆さんから笹の葉にくるまれた握り飯と竹筒を受け取り、切株に腰掛ける。包みを開いて握り飯を食べながら仕入れた情報を頭の中で整理していく。敵味方それぞれの戦力、地理的な有利・不利、士気の高さ、その他諸々…何処をどうとっても絶望的だ。それでも我が主は豊臣方に組みするという。主が決めたことなら従うまでのこと。派手な戦をして散っていくのも一興だ。

色々と思案しているうちに思い出したのはさっき見た女のことだ。明らかにこの村の者と雰囲気が違った。あの女が何者かなんて知らなくても支障はないが、少々気になった。俺は畑仕事に精を出している婆さんに訊いてみた。

「おい、婆さん。山中で女が一人暮らしていたがありゃ誰だ」

「お前さんあの子を見たのかい?」

「見たから訊いてんだろう」

「…あの子は石田三成様の幼馴染みだよ」

予期せぬ人物の関係者だったことに驚いて米を砕いていた顎の動きが止まった。一間置いてから飲み込む。なんでも、太閤が亡くなってからすぐ連れてこられたそうだ。おそらくは世が荒れることを予想して手元に置いておくより隠したほうが安全だ、と判断したのだろう。関ヶ原の戦いから随分と経っているが、石田三成の女であれば徳川に差し出せば褒美を貰えるはず。

「まさかあの子をどうこうするつもりじゃないだろうね」

「しねぇよ。生憎、俺は徳川が大嫌いだからな」

鎌をこちらに向けて威嚇してくるので落ち着かせると素直に下ろした。ここの村民はどちらかというと豊臣に思い入れがあるらしい。そのおかげで俺は雨風防げる寝床と暖かいご飯を得ている。

「戦が起きる少し前にやってきて春が来るまでには迎えに来るからもう少しの間あいつを頼むと仰っていたけどね」

「春って…もう何年経ったと思ってんだよ」

婆さんの目は女が住まう山へと向けられる。残り半分になった握り飯にかぶりついて水で押し流した。一気に平らげて婆さんに倣い視線を山に固定する。大樹に額を付けて微動だにしなかった後ろ姿。話したこともない、名も知ぬ女だけど、一生泣きはしないと確信出来る。あれはそういう類の女だ。

馬鹿なやつ。もう帰ってこない人間のために人生を棒に振るつもりか。その気になれば嫁の貰い手ぐらいあったろうに。

「お前さんにはわからないかもしれないがあの子は心から三成様をお慕いしているんだ。だからこそ何年経っても気持ちは変わらないし、ずっと待ち続けることが出来るだよ」

「………俺にはわからねぇよ」

忍である俺には理解出来まい。愛する人もいなければ、一生をかけても待ってくれる人もいなのだから。

不変のものがあるとは思えなかった。だってそうだろう?農民からのし上がりこの世の全てを手に入れた太閤はあっけなく死に、太閤が作った世を護ろうとした石田三成も処刑された。豊臣は衰退の一路を辿り、ついには一大名でしかなかった徳川によって歴史は塗り替えられようとしている。

移り変わっていく時を目の当たりにしても、どうしようもない現実を知りながらも、あの女は待ち続けるというのか。

「何があっても譲れないものもあるんだ」

「そういうものかねぇ」

「そんなもんだよ」

そんなものだよ、と言われても俺にはちっとも理解出来ない。すでに人として大事な物を無くしているからか。それを悲しいとは思わないが少しだけ虚しい気はした。






(そうすればあの女は幸せになれるのに)










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