恐れる物など何もない。俺は己が信念を貫き、今だって幸村や兼続と語り合った志を捨ててはいない。恥じることも、悔いることもない。最後まで義のために在ろう。

だから、恐れる物など何もないのだ。



ただ



「待ってますよ、三成」



俺が処刑されたと聞いても名前は待ち続けるだろう。帰ってこないと知りながらも待ち続けるとはどれほどのものか。解き放たれることはなく、心は縛りつけられたまま。

考えるのだ。あの時俺の想いを伝えていたら、お前は少しでも穏やかにいれただろうか。



いや、変わりはしない。幼馴染だからわかる。名前はそういうやつだ。

どこまでも一途で自分の考えを早々に変えたりはしない。芯が強く、始終穏やかな幼馴染。

それが嬉しくもあり悲しくもある。

(俺を想い続けてくれることが、お前が悲しき日々を送ることが)


簡単なことなのだ。俺が名前のもとに帰って一言言って抱きしめてやれば名前は幸せになれる。

わかっているのに、どうすることも出来ない。





時が移ろい季節が巡っても、名前に春が来ることはない。俺の終生変わることのない想いは届かない。







「愛してる」


そう伝えたら名前はきっと知ってます、と笑っただろう。






(もうすぐ俺やお前の時間は止まってしまう)









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最期の瞬間に見えた幻は花をつけた桜の木と、桜に負けないぐらい美しく微笑む名前の姿だった。




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