目は開けていられない、耳は辛うじて機能している。全身の力が抜けて意識は霞みがかっている。思考はほぼ停止状態。私はもうすぐ死ぬのだろう。城壁に寄りかからなければ座ってすらいられない。死合った相手は既にこの場を去っている。忍になったからにはろくな死に方はしないだろうと覚悟はしていたけど、最期に一人ぼっちというのはやはり寂しい。私は攻めこまれた城の片隅で一人、緩やかに死を待っていた。

「  」

遠退きかけた意識が戻ってくる。誰かいる。声が聞こえたけど何と言ったかまではわからない。気配は感じなかった。仲間なのか敵なのか。敵だとしたらどうするつもりだろう。ほっといても死ぬのはわかっているはず。それでも止めをさすのだろうか。そもそも、私がまだ生きていると気づいているのか。

どんな状況かもどうなるのかも何もわからないままに相手の動きを待っていると頭に何かが乗った。ゆっくりと左右へ動く。もしかして頭を撫でている…?その行為に気づいた瞬間、在りし日を思い出す。撫で方がそっくりだ。いるわけないのに、違うのに。だけど、ああ、懐かしい。あの頃に戻ったような錯覚をおこして思わず笑ってしまった。瞼の裏に映るのは大好きな先輩の笑顔だった。










敵対する城に仕えていると知っていた。その城と戦をすると決まった時点で直接刃を交えるかもしれないと覚悟していた。だけど、こんな形で遭遇するとは思ってなかった。

攻めこんだ城の片隅で脇腹を赤く染め上げる名前を見つけた。城壁に身を預けることで辛うじて座っている。名前は忍術学園の後輩であるが今は敵同士だ。警戒しながら近づくが反応はない。名を呼んでも同じだった。瞼は固く閉じられたまま。どうやら目を開く力すらないようだ。

警戒を解いて名前の正面に立つ。辛そうに呼吸をしている名前は誰がどう見たって助からない。情けをかけて楽にしてやるべきかもしれないが俺には無理だ。今の俺は敵の忍でなく、学園の先輩に戻っていた。可愛い後輩を殺すなんて出来やしない。少しでも苦痛を和らげてやれないかと考えて思いだす。

「私、食満先輩に頭撫でられるの好きです」

後輩の頭を撫でるのが癖であった俺は、例に漏れず名前の頭も撫でていたが、名前は嫌がるどころか喜ぶもんだから調子に乗ってしょっちゅう撫でていた。

俯いているのでちょうど頭を差し出す形になっている。そっと掌を乗せて撫でる。繰り返していると苦し気な表情が解けて微笑み、名前はそのまま息を止めた。

その微笑みは見慣れた物だった。きっと誰かなんてわかってないのに、そんな、ああ、懐かしい。

「名前、名前…」

何ですか食満先輩。そんな言葉が聞きたくて何度も呼んでみるけど何も返ってこない。プロ忍になってそれなりに経つが、あの頃の思い出は今も色褪せず、寧ろ月日が過ぎる事に輝いていく。名前は食満先輩と無邪気に笑って…現実は厳しいのに思い出ばかりが優しくて、どうしようもなく悲しい。

「名前は俺に頭を撫でられるのが好きだって言ったよな」

俺は頭を撫でた時に浮かべる照れたような笑顔が好きだったよ。





思い出だけが美しく










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お題 is様より
「思い出だけが美しく」使用



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