妹の話し相手になってくれぬか。そう秀頼様に頼まれたのがきっかけだった。初めてお目通りをした時のことは今でも覚えている。身分違いでありながら、姫様のあの儚げな笑みに一目で心惹かれてしまったのだ。





軍議を終えて城を出た。屋敷へ帰る途中に見張りの者の横を通り過ぎる。どこかのんびりとしているが、今ぐらいはいいだろうと思って咎めなかった。もうすぐ、そんな暇はなくなるのだから。

(家康め。やはり攻めてくるか)

予期していたが再び戦になる。裸城となった大阪城では満足に戦えないから野戦に持ち込む。そのことについて異論はないが、ただ一つ。大阪城の護りは薄くなり下手をすると淀様や秀頼様、それにあの方に危害が及ぶかもしれない。

(姫様…)

立ち止まり、豪華絢爛な城を仰ぐ。姫様は天下人の娘として生まれながらもあまり幸せではなかった。淀様の愛は兄である秀頼様ばかりに向かって姫様には無関心だ。空気と同列、淀様の中に姫の存在はない。

(彼女も太閤殿下のご息女、豊臣の血筋だというのに)

姫様も淀様の血を受け継いで美しい。しかし、淀様に似ているかときかれれば是とは言えない。淀様は凜とした美しさだ。あまりにも美しすぎて近付くのが恐ろしい、氷のような美貌。対して姫様は日だまりのような柔らかさがある。いつも浮かべている微笑みがそう見せてるのかもしれない。

(本当に身も心も綺麗な方だ)

不遇な生活を強いられ、最期は家のために死ぬことになるかもしれないというのに、悲観することも卑屈になることも、ましてや誰かを怨んだりもしていない。

(私は不忠者かもしれない)

豊臣が姫を不幸にするのなら姫は豊臣など捨ててしまえばいい。そうして遠い地で何にも縛られず幸せになってほしいと願うのだ。

(だけど姫様はそんなことを望んではいない)

踵を返して屋敷に向かった。その途中でふと思い出す。庭の桜の蕾が突っつけば開花しそうなほど膨らんでいた。

(花が咲いたら姫様にお見せしたい)

しかし、姫様は滅多に外に出ることが出来ない。ならば枝を折り持ってて差し上げよう。きっと喜ぶ。いつもの穏やかな笑みも好ましいが屈託のない笑顔も見てみたいものだ。



(嗚呼、姫、姫様。名前姫様)



どうすれば貴方は幸せになってくれるだろうか。







(だけど、私にはその方法がわからない)











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お題、憂雲様より
「瞳を閉じて願うは君が幸せであれと」使用



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