深めの大皿に料理を盛ってそれぞれのテーブルに置いていく。刺身も同じように皿に乗せるとテーブルへ。ご飯とお味噌汁は人が来てからよそえばいい。よし、準備OKだ。

コップや箸はお手伝いをしてくれる攘夷志士さん達に任せて炊飯器の脇にあるマイクのスイッチをいれる。赤い光が緑になったのを確認してから右手に持った鍋と左手にあるお玉を近づけて………


ゴォンゴォンゴォン!!!


力任せに打ち付けた。ちなみに、この鍋は今のような叩くためだけに買われた専用の物である。そろそろ新しいのと取り替えないと駄目かな…かなり凹んでるし。

「えー皆さん。待ちに待った夕餉です。早く来ないと食べ損ねますよ。食いっぱぐれたくない人はさっさと食堂に集まりなさい。以上!!!」

必要以上の力でスイッチを切る。かく部屋の音量は最大になっているから耳が痛くて敵わないだろう。あっはっはー!!!スッキリした。

「名前さーん。来ましたよー」

「は〜い」

臨戦体制、しゃもじをにぎりしめる。先頭の人が通り過ぎるのを見計らって茶碗を盆に乗せる。働き盛りの男性なので元から量は多めにしてあるがそれでももっと多く、と注文してくる人もいるのでその時はご飯を追加する。これはリズムが大切だ。早くても駄目だし、遅くても駄目。列の流れを読み取って機械のように正確に右手と左手を動かさなきゃ。たかだかご飯をよそうだけだろ、なんてツッコミいれたら怒るから。

「名前さん交代しますよ」

「え、いいんですか?」

「はい」

「わかりました。ここはお願いしますね」

「まかせてください」

お言葉に甘えて任せると出入口に陣取り挨拶したり一声かけたりする。ここの人達は顔はごついが慣れれば基本いい人だ。暫くそうやっていると、一際目立つ三人組がやってきた。

「精が出てるねェ。随分といい匂いがする」

「こんばんは岡田さん。今日も腕によりをかけて作りましたよ」

「そりゃ楽しみだ。期待してるよ」

「ありがとうございます」

先頭切って入って来た岡田さんは「人斬り似蔵」の名で有名だ。最初は恐くて恐くて仕方なかったが、話してみるととても気さくな人と判明した。今では普通に仲良くしている。

「おしい………いつ見てもおしい人です」

二番手は武市変平太さんだ。こちらも親切にしてくださるけど…ぶっちゃけ変態、ロリコンだ。人の趣味をとやかく言うつもりはない。が、あと五歳若かったら…とか呟きながらじろじろ見るのはやめて。アッパーカットしたくなる。

最後にツーンとしながら素通りしたのが来島また子さん。女性は私とまた子さんしかいないので仲良くしたいと思っているのに何故か敵視されている。貴方はあの人と仲がいいので嫉妬してるんですよ、と武市さんに言われたことがある。えっ、あの人って誰??

「また子さ〜ん一緒に食べましょうよ〜」

「いやっすよ。何でアンタなんかと食べなきゃいけないんっすか」

おぼんに食器を乗せているまた子さんの周りを纏わり付くと蝿でも追い払うように手で払われた。そんなに邪険にしなくてもいいじゃないですか、さすがに悲しくなりますよ。というか、また子さんの中の私って蝿と同列扱いですか!!

なんか悔しいのでさらにうろちょろしてやれば蹴られそうになる。痛いのはいやなので回避したら後ろの人の足を踏んでしまった。ごめんなさい、わざとじゃないんです。

「そんなに邪険に扱わないでくださいよ。悲しくなるじゃないですか」

「どうでもいいっす。大体アンタがいなくたって鬼兵隊は十分やっていけるんっすよ」

「嘘おっしゃい!また子さんなんて指切って食材真っ赤にしてたくせに!!あれは一種のホラーでしたよ!!」

「いらんことを思い出すな!!」

本当、見事に指だけ切って食材には傷一つなかった。凄いですね、って純粋に褒めたけど、後であれはフォローをするべきだったと後悔した。

私が来るまで鬼兵隊の食事は悲惨だったようだ。唯一の女性のまた子さんはあの有様だし。それでもなんとか機能していたというのだから不思議である。

「あれは忘れ「おい、何の騒ぎだこれはァ」

言い争いを止めたのは知らぬ間に戸口に立っていた高杉晋助だ。なんて珍しい。いつもは自室で食べるから食堂には来ない。

「晋す「高杉さん!!」

狙ったわけじゃないのにまた子さんと被るように高杉さんを呼んでしまった。瞬間、彼女自慢の愛銃が火を噴いて弾が私の顔すれすれのとこを通過していった。背後で誰かが俺の髷がーーッ!!っと叫んでいる。振り向く勇気はない。今のはまた子さんが悪いのであって、私は何も悪くはなくて、だから、その………ごめんなさい。

「ななな何するんですか!?」

「うるさい!!晋助様との会話を邪魔するなんて………許せないっす!!!」

「ギャー!!銃向けないでください!!!」

「問答無用!!!」

「名前」

「はい!!」

「飯だせ」

高杉さんは何事もなかったように夕飯の催促をした。この場の状況や雰囲気を無視した発言に全員動きが止まる…彼にとってはそれすらどうでもいいことだ。相手のことなど一切合切無視して話しを進める。まさにゴーイング・マイ・ウェイ。

思えば出会った時からこんな感じだった。ふらっと私が切り盛りする店にやってきて定食平らげ、いざ会計っとなった時になんの脈絡もなく私を拉致したのだ。お金がなくて払えないから誘拐したのかと思ったらうちの飯はマズイからお前が作れ、と命令された。

適応力があるので新しい環境にはすぐ馴染んだ。店がどうなったか心配だがここでの暮らしは案外楽しい。ただ、テレビでテロリストに拉致された苗字名前さん〜…と、報じられた時は口から心臓が飛び出しそうなぐらい驚いた。ご丁寧に写真まで映ってた。お父さん、お母さん!!名前は全国放送されたよ!!有名になっちゃった!!………親不孝な娘でごめんなさい。

「おい、まだか」

「只今!!」

回想に耽っていたら高杉さんからせっつかれた。機嫌を損ねたりしたら大変だ。

御膳に器を並べて高杉さんの座ってる場所まで運ぶ。何故か周りには人だかりが出来ており、私が近づくと人垣が左右に割れて道になった。何とも言えない心情になりながらそこを通る。

「お待たせいたしました」

テーブルに置くと高杉さんはいただきますと呟き、じゃがいもを摘まんで一口。よく咀嚼してから喉に通す。あとはその作業の繰り返しで次々と口に運んでいく。

「あのー…高杉さん」

「あ?」

「お味は如何ですか?」

緊張の一瞬だ。美味しいかどうかなんて初めて聞く。高杉さんの口に合わなかったら用無しって事で私は捨てられる。せ、せめて捨てるなら店の前にしてください。

そんなネガティブなお祈りしていると、高杉さんが味噌汁を飲んでから一言。

「まずくねェ」

ひっじょーに曖昧な感想をくださった。まずくはない…って、美味しくもないってことですよね。え、何?良いの悪いのどっちなの??

真意がわからず混乱する私を他所に高杉さんは優雅に食事を終えるのであった。














「ぶふっ」

「いかがなされた万斉殿」

「いや、何でわからないのかと思って」

「はぁ?」





高杉のまずくないは最高の褒め言葉なのだ。





鬼兵隊の夕食
(そもそも、気にいってなければここに連れてくるわけがない)









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途中から鬼兵隊の皆様がフェードアウトされました。そして題名が思いつかなかったからって安直過ぎる。

どうやら我がサイトの高杉はKYというよりAKY(あえて空気読まない)のようです。空気(?)が俺に合わせろ、的な。むしろ不思議ちゃんか?(爆)



以下、ヒロインが鬼兵隊来た理由

ヒロインが経営している店に高杉が立ち寄り、その際に食べた定食を気に入ったので調理人として拉致した模様。まずい飯食わされるのに嫌気がさしての犯行だったと思われる。



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