庭に出て鍛練をしていたらいつまのあれがやってきた。背後からびしばし突き刺さる。忍装束や皮膚を通り越して臓物まで覗かれてるような気分になる。それ程までに激しい。鍛練どころではなくなって仕方なしに振り向く廊下の薄暗い場所にいる五年い組の久々知兵助がいた。ただでさえ大きい目をさらに見開いてこちらを見ている。瞬き一つしないもんだからドライアイになるのではないか。視線が交わったのはほんの数秒、彼は踵を返すと角を曲がって消えた。相変わらず意味不明だ。久々知兵助は何がしたいんだろう。

視線を感じて周りを見ると必ず久々知兵助がいる。話しかけられるでもなく少し離れたところから見つめてくる。そして目が合うと彼は逃げてしまうのだ。こんなことがもう一月以上続いていた。最初は何か言いたいことでもあるのかと思ったが違うようだ。次に喧嘩でも売られてるのかと考えたがそうでもないらしい。ほとんど話したことないから彼のことはよくわからない。うーん。

行動原理がわからなくて頭を悩ませる。こうなってしまったら何も手につかない。ため息を吐いてくないを懐へ仕舞った。いい加減うんざりしてきた。気づくと久々知兵助が居るので気が休まらないし、一方的に見つめられるのも正直気持ち悪い。

「よし、決めた」

このままでいても何も解決しない。そろそろ生活に実害が出そうなので動き出すことにした。









空き教室に身を潜めていると目的の人物が通ったので廊下に出た。特に気配も消さずにいるとすぐに気づいたようで久々知兵助は目を丸くした。

久々知兵助が所属する火薬委員会は火薬庫で活動を行う。その火薬庫に行くには必ずここを通らなければならない。今日は火薬委員会があるのでこの付近に隠れていればいずれは会えるだろうと考え、待ち伏せた。正面から行ったら逃げられる可能性もあったからだ。計画は成功、いつも見つめている相手が急に現れたので驚いた様子だ。優等生を出し抜けたようで気分がいい。こんにちは久々知君、とにこやかに挨拶をする。

「私のことは知ってるよね?単刀直入に訊くけどどうしていつも見つめてくるのかな?あ、とぼけるのはなしね。ばればれだから。目が合うと逃げちゃうから気になるんだよね。私が気づかないだけで久々知君に何かしたっていうなら言って欲しい。そうじゃなかったとしても理由を教えて欲しいな」

言いたいことを言って大分すっきりした。後は返答を聞くだけである。久々知兵助に逃げる様子はないのでいつものお返しとばかりに見つめる。間近で見て気づいたが…睫毛長っ、肌白っ!!穴が空くんじゃないかってぐらい見つめているときょとんとした表情が徐々に変わっていく。きらきらと眼は輝き、唇は綻んだ。

「俺のこと知ってるんだな」

「………は?」

質問を質問で返されてた。というか何で嬉しそうなの?冷静沈着、あまり感情が表に出ないことで有名な久々知兵助が喜色満面である。なんか彼の大好物である豆腐を前にした時の反応に似ているような…。

「知ってると思わなかったから」

「いや、忍たまでも同級生の名前と顔ぐらいは覚えてるよ」

「そうか、そうだよな。俺さ、ずっと苗字さんと話してみたいと思ってたんだけど、どうやって話しかけたらいいかわからなくて見てるしか出来なかったんだ。毎日見てたら苗字さんが気づいて話しかけてくれたし、その綺麗な目に俺を映してくれたから…凄く嬉しい」

久々知兵助意外と喋る。頬を赤らめてうっとりしているのが乙女みたいだ。何故か様になっている。なんか怖い。若干引いていると恍惚とした表情が変化する。

「でもさぁ…」

こてん、と首を傾げて口元はそのままに目を細めた。同じ笑みでも種類が違い、仄暗さを孕んでいる。笑っているのに笑っていない。あ、あれ、寒気がするぞ。

「苗字さんの目に俺以外が映るなんて嫌だなぁ。俺しか見ないようにしてしまおうか。それがいいや。閉じ込めちゃえば俺だけみてくれるよね?二人っきりの世界に豆腐があれば完璧。楽園だな」

あんぐりと口を開けた私は見るに堪えない顔をしているだろう。何かしら彼の中で決定したようでそれじゃ行こうか。と、手を引かれる。何処に、行くの。心なしか人気がない場所に来たような…おいおいおいおい。

我に返った私は拳を作り久々知兵助の後頭部を殴打し、手の力が緩んだ隙に全速力で逃げた。

何あれ怖い。意味わかんない。どういう思考をしたらああいう結論に達するのか。秀才は凡人には理解出来な…いや、そういう問題じゃない気がする。そもそも、久々知兵助は私をどうしたいの。閉じ込めたいんだっけ?………何で?え、え?

絡んでみたら久々知兵助という人間がますますわからなくなった。兎に角これ以上彼と関わると私の人生が終わる気がするのでもう二度と関わらない。絶対だ。

くのたま長屋に戻りながら固く誓うがそうは問屋が卸さなかった。色々と吹っ切れたらし久々知兵助は執拗に絡んでくるようになった。何気ない会話に混ぜて恐ろしい発言(閉じ込めたい、とか)をし、それを実行に移そうとするので恐怖に震える日々を送っている。こんなことなら話しかけなきゃよかったと死ぬほど後悔したがもう遅い。





俺以外、見ちゃ、だぁめ
(久々知兵助恐いです)









--------------------
ヤンデレを目指して失敗したの段。原因はギャグにしたからだと思われます。というか、一発目からこんなんでよかったのでしょうか(^p^)



お題 レイラの初恋様より
「僕以外、見ちゃ、だぁめ」使用











「兵助も策士だよな」

「何で?」

「苗字さんの件。あれ全部わざとだろ?あんな明白に見てたら誰だって気づくし繰り返されたら気にもなるわ。それに兵助が本気を出せばバレずに見るぐらい出来るだろう」

「だって、そうすれば苗字さんは気になって俺のことしか考えられなくなる。俺のことで頭をいっぱいにしてるなんて最高じゃん。ああ、どうせなら俺だけを見てくれればいいのに。何よりも大事にするし、どんなことがあっても守り抜くって誓えるよ。苗字さんを一等愛してるのは俺なんだからさ、俺以外必要ないだろう?だから誰の目にもつかない俺しか知らない場所に閉じ込めちゃってもいいよね。そう思わない勘ちゃん」

「何でそうなる。兵助は考え方が病んでるよ」

「そう言いつつも止めないんだな」

「見てと楽しいんだもん」

「性格悪い」

「えーそういうこと言うなら協力してやらないぞ」

「ごめんなさい」

「素直でよろしい。ま、友達の恋は応援してやらなきゃね。頑張るだぞ兵助。何かあったら手伝うからさ」

「ありがとう勘ちゃん。でも本当は自分が楽しみたいだけでしょう?」

「あは☆」

「やっぱ勘ちゃんは性悪なのだ」

「兵助のヤンデレ具合には負けるよ」

「「あはははは」」





「「「(い組恐い)」」」





オマケのほうが薄ら寒いwww



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -