「俺はぜってー認めねえからな!!!」
「声が大きいよ…」
私たち結婚しました。わー…洒落にならん。まさか本当に結婚させられるとは。義兄さんってばお前はスバルと結婚しなさい、って問答無用だったよ。あれよあれよという間に夫婦になったもんだから私もスバルも唖然とするしかなかった。スバルが学生ってこともあってお披露目パーティーや結婚式は先送り、結婚したことを知る者もごく一部。それだけが救いだ。
正式な夫婦となった私とスバルは義兄さんから与えられた家に移り住み、二人で生活することになった。今まで住んでいた屋敷よりは狭いが、二人で住むには広い。新築のようでどこもかしこもピカピカしている。理由はどうあれ新しい家というのはワクワクする。キッチンやバスルームにテラス、二回に上がって一通り見て、念のためもう一度回ってみたがやはりあれが足りない。
「スバル大変だ!!」
「うっせぇよ!!」
リビングに駆け込んだらソファーで不貞寝していたスバルに怒鳴られた。いつもなら引きこもるスバルだが、彼の棺桶は後日運ばれることになっているので今はない。無理やり結婚させられた+棺桶がないせいで不機嫌Maxである。
「聞いて。どこを見てもベッドが一つしかない」
「あ?」
どういうことかわからないようで反応が鈍い。いや、お前ここまで言ったら察せよ。大体わかるだろう。
「ベッドは一つ。私たちは二人。寝る場所が足りないな」
「………」
右手は指一本、左手は指二本立てて説明すると理解したのかスバルの顔が歪んでいく。うわぁぁ、これはキレるぞ。新品の家と家具を壊されないようにするため、起き上がったスバルの真正面に立って待機する。手を振り上げた瞬間に拳骨落としてやる。
「あの野郎…今度会ったらぶっ殺してやるっ!!」
拳が飛ぶことはなかったが苛立だし気に髪の毛掻いている。禿そうだからやめろ。それにしても、義兄さんは何を考えているんだろう。夫婦なのだから問題ないだろう?とかあの人なら言いそうだ。
「荷物が来るのは明日だから今日一日乗り越えればいい。で、どうする?」
「何がだよ」
「どっちがベッドで寝んの?」
一瞬ぽかんとしたスバルだったがすぐに眉間に皺を作った。これ、訊くまでもないよな。スバルは絶対譲らないだろうし、普段棺桶で寝ている子をソファーで寝かすっていうのも可哀想だし…。
「あーいいや。私はソファーで寝るからスバルがベッド使いなよ」
「はぁ!?」
「何」
「ソファーってお前、予備の毛布とかあんのかよ」
「ないよ」
「寒くねぇのか」
「服着こんで寝れば大丈夫でしょう」
肌寒い程度だし、服を何着か持ってきているから一日ぐらいなら何とかなる。それより空が明るくなってきたし、夜になったら業者が来るんだから早めに寝たい。手荷物は…使い魔が自室に運んでたな。
「もうそろそろ寝よう。お前も早く寝なさい、よっ!?」
荷物を取りに行こうとしたら腕を掴まれてつんのめった。え、何。まだなんかあるの?座ったままのスバルを見ると何とも形容し難い表情をしている。あえて言うなら苦悩している、って感じか?
「どうしたのスバル」
「…ばいいだろう」
「はい?」
「だから!!いっ………一緒に寝ればいいだろうが!!」
いや、まさかスバルがあんな提案するとは。
「スバルくんや。寒いんだけど」
「黙って寝ろ!!」
それなりに広いベッドの端、落ちる一歩手前のギリギリの位置で私に背を向けた状態でスバルは横たわっている。私たちの間には隙間があるので冷たい空気が入ってきて結局寒い。これ一緒に寝る意味ないよね?
「別に何もしないから普通にすれば?」
「んな心配してねぇよ!!つか、なんでそんな冷静なんだよてめぇは!!」
「三つ子の添い寝経験あるからこういう状況には慣れてる」
スバルのことだって子供の頃から知ってるんだから、今更一緒に寝たところでどうとも思わない。
「みつ…三つ子と一緒にすんな!!」
「(変わんないと思うけど…)」
めんどくさいスバルにこちらまでめんどくさくなってきた。自分から言いだしといてなんなの。本当寒いから四の五言ってないでもうちょっとこっちに来い。スバルの服を引っ張ると嫌がるそぶりを見せたが引っ張り続けた。
「引っ張るんじゃねーよ!!」
「隙間埋めたら放してあげる。ほーれ、早くしないと服がビロビロになっちゃうぞー」
「てめぇ…調子に乗りやがって!!くそっ、わかった、そっちいくからやめろ!!」
「よし」
ぱっと手を放すと恐る恐る寄ってきた。その様は初めて会った人間に警戒しながらもにじり寄る動物みたいだ…ダメだダメだ、笑ったら怒られる。
一定の距離を保ったまま止まったのでこちらから近づいて軽く背中を合わせてみる。スバルの身体が強張った。
「お前っ!!!」
「はいはい。真面目に今後の話をするから静かにしなさい」
そう言うとスバルは騒ぐのをやめた。沈黙が私達を包む。吸血鬼なわけだからスバルの体温は冷たいけど、それでもくっついているとなんだか落ち着く。人に触れるって行為はそれだけで心が安らぐのかもしれない。人間でもないのにこんなことを思うのも変かもしれないけど。
「おい。寝たのか?」
「起きてる」
「だったら、さっさと話せ」
「んー。スバルはまだ、この結婚を認めてないんでしょう?」
「当たり前だろう。コレットはいいのかよ、こんな強引なやり方で」
「むしろ三つ子から解放されて清々してるけど」
「は?」
「よく考えてごらんよ。私たち二人しかいないんだから好き放題できるじゃん。自由だよ、自由」
「お前…そんなこと考えてたのか」
「物は考えようってね。変に意識することはないの。夫婦って言ったって私もスバルもその気がないんだから、形だけって割り切りなよ。それに私だってずっとこのままでいるつもりはない。スバルに結婚したいって思えるような人が出来たらちゃんと別れてあげる。誰にも文句は言わせない」
籍もいれちゃったんだし、義理兄さんには逆らえないんだから開き直るしかないでしょう。その代り、スバルに好きな人が出来たときは全力で別れてやるさ…義理兄さん恐いけどスバルのために頑張ってあげよう。
「だから、しばらくは我慢。ね?」
「…俺の邪魔だけはすんなよ」
「肝に銘じておきます。仲良くしてくださいねー旦那様」
「その言い方やめろ。虫唾が走る」
「さすがに酷くないか」
身体の強張りも解けていつもの調子に戻ったので一安心だ。結婚にも了承したようだし、相手がスバルならなんとかやっていけるだろう。
「ま、楽しくやってこうよ」
「ふん」
仮初の夫婦に終わりが来るその時まで、よろしくね。
アンダンテ
ゆっくりゆっくり歩いていこうね。
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結婚したってーのにあんま変わらない二人ですが、これから少しずつ変わっていきます。
付かず離れずでもだもだしまくりですよ。
頭の中では完結しているけど、なかなか文にならない…。