※オリジナルキャラ有り。
※弟→姉、女→女要素有り。
※ご注意ください。





放課後の学校に人の気配はない。運動部の元気な声と吹奏楽部が奏でる楽器の音が微かに聞こえてくるだけの環境は、内緒話しをするにはうってつけだった。

「先輩は姉さんのことが好きですよね?友情ではなく恋愛対象として」

帰ろうと歩いていた名前に近くも遠くもない適度な距離を保ちつつ、知ってるようで知らない人間―――赤葦京治が話しかけてきた。ほぼ、初対面の人間に対して挨拶もせずにいきなり不躾だ。

「意味がわからない」

「俺に嘘は通用しませんよ。姉さんの親友の、苗字名前さん」

名前の眉根が寄って表情が険しくなる。わざと親友を強調するあたり相当意地が悪い。暗に責めているのだろうか。してはいけない恋だということは名前自身一番よくわかっていた。

「親友に恋するなんて大変ですね」

「貴方こそ」

「はい?」

「京佳のことが好きだよね?貴方はお姉さんに恋してる」

夕日が落ちて赤葦や名前を橙色に染め上げる。細められた目に緩く弧を描く唇。秘密を知られたというのに赤葦は楽しそうである。

「よくわかりましたね」

「見てればわかるよ」

姉弟が話しているのをたまに見かけるが、赤葦の京佳を見つめる瞳が自分と同じだったからすぐに気づいた。彼も人に知られてはいけない想いを抱えているのだ、と。

「俺のことを見てたんですか?」

「貴方と一緒にいる京佳を見てたの」

「そうですか。それなら話しは早い。先輩に一つ提案があります」

提案と言われても現時点で赤葦の印象はあまりよくない。変なことを言い出すのではないかと思い、名前が露骨に不信感を表せば赤葦は苦笑しながら酷いですね、と呟いた。

「そんなに警戒しなくても先輩にとっても悪い話しじゃないですよ」

「…何」

「俺と友達になりませんか?」

「は?」

「同じ相手に許されない想いを抱いた者同士。いい友人になれると思いません?」

それは友人でなくただの馴れ合いの関係である。名前は赤葦の考えを見抜いた。誰にも言えない想いは秘めるにはあまりにも重ぎる。このままでは押し潰されてしまうから、吐き出せる場所が欲しい。一般的には否定される想いを受け入れてくれるのは自分と同じ境遇の人間だけ。そこまで理解した上で名前は返事をした。

「いいよ」

押し潰されそうなのは同じ。傷の舐めあいになろうとも少しでもこの苦しみから解放されるなら構わない。

「本当ですか?」

「うん」

「なら、秘密の関係成立ですね。よろしくお願いします」

赤葦は人差し指を口に当ててウィンクしてみせた。赤葦京治という男には秘密という言葉が似合うように思えた。





ないしょだよ、
(甘美な響きなどない。限りなく苦々しいだけ)









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テーマは人が人を好きになるということ、です。特殊なお話ですがドロドロはしません。切なく、しかし最後はハッピーエンドにしたいです。



お題、夜風にまたがるニルバーナ様より
「ないしょだよ、
(僕たちはそうやって密やかに、けれど触れ合わずにはいられない)」使用



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