今日の朝食の席はベストポジションだった。俺の直線上にミカサが座っている。障害物はないし、向かい合う形だからミカサの顔がよく見える。ここぞとばかりに堪能する。やっぱり綺麗な黒髪だな。一度でいいから触ってみてぇ。パン食べてるだけっていうのになんであんな優雅なんだ。朝から眼福だが、唯一の難点はミカサの横にいる死に急ぎ野郎だ。邪魔だ消え失せろ。

「ジャン、手止まってる」

「あ?」

隣で食事をとっていたアルメリアに指摘される。どうやら無意識のうちにミカサを見るのに専念していたようだ。これは流石に恥ずかしい。アルメリアは俺が何に夢中になっていたか気づいたようだ。スープを口に運びながら取り繕う。

「お前食うの遅い。訓練に遅れるぞ」

「ごめんねジャン」

「は?」

眉を下げたアルメリアはいきなり謝りだした。何に対しての謝罪かわからない。もしかして食事が遅いから怒っているとでも思ったのだろうか。怒ってねぇよ、と伝えてもアルメリアの表情は晴れない。それこそ泣きそうな顔をしているけど、朝食中とあって人がいるので泣きはしなかった。ただ、様子が変だ。

「アルメリア?」

「ごめんねジャン」

アルメリアはもう一度謝った。気になったが、時間がなかったので言及はしなかった。



それ以降、アルメリアは泣くのをやめた。













就寝前の束の間の自由時間。周囲は歓談しているが俺はそれどころではない。

「ジャン、なんかあったのか。元気ないぞ」

「マルコ…」

2段ベッドの二階部分。俺以外は誰もいないのをいいことに大の字に寝転がりながら天井を睨んでいるとマルコが梯子を登ってきた。俺が起き上がると同時にマルコが隣に座る。

「なんか心配事でもあるなら相談に乗るよ」

マルコの優しさに心が揺らぐ。一人で考えてもどうにもならないし、マルコにならいいか。行き詰まっていた俺は思いきって相談することにした。

「アルメリアのことでちょっとな」

「アルメリアがどうしたの?」

「実はな…」

アルメリアが泣き虫なこと、最近、態度がおかしいことを説明する。あの泣き虫が、最低でも一週間に一度は泣くアルメリアが泣かなくなった。病気としか思えないが本人は至って元気である。あと、心なしか距離を置かれている気がする。あんま寄って来ないし。ついでにアルメリアが俺以外のやつの前で泣いたりしたら、と考えると胸糞悪いこととか洗い浚いぶちまけた。俺は相当鬱憤が溜まっていたらしい。

「あのアルメリアが泣き虫なんて意外だね」

マルコは目を丸くしている。そりゃそうだ。普段のあいつはへらへらしているから、そんな風には見えないだろう。あいつが泣き虫なのを知っているのは俺だけだと思うとちょっとした優越感………何でだ。

「ジャンが何かしたんじゃないの?」

「何もしてねぇよ」

「本当に?」

「10日前の朝食の時は普通だったぜ。ま、ちょっと俺がミカサに夢中になっちまって暫くほっといたけど…それぐらいで怒らないだろう」

「ミカサか…」

一通り話しを聞いたマルコはふむ、と顎に手を当てて視線を斜め上に流した。何故か緊張して背筋が延びる。マルコの視線が俺に戻ってきた。結論が出たようだ。

「アルメリアの件はわからないけど、ジャンがアルメリアの泣き顔を誰にも見せたくない理由なら解明出来るかも」

「本当か!?」

「うん。一つずつ整理していこう。まず最初に、ジャンってミカサのことが本当に好きなの?」

「は?」

突拍子のない、というか今回の件についてはまったく関係ないと思う質問だった。俺、ミカサが好きなことを打ち明けたよな?聞いてなかったのか??

「最近のジャンはミカサにアプローチかけてないじゃないか」

「それは、アルメリアがひっついてるせいで!!」

「アルメリアのせいにしない。ジャンだったらアルメリアがいようがいまいが関係ないでしょう」

「うっ」

ぴしゃりと言い放たれてぐうの音も出ない。流石マルコ。俺の性格をばっちり見抜いてる。ていうことは、何だ………それってどういうことだ。試験中でもこんな使わねぇってぐらい脳味噌をフル回転させるが余計にこんがらがるだけだった。

「ジャン、百面相してる…ぶっ」

「笑うなマルコ!!」

こっちとら真剣に悩んでいるというのに、マルコは人の顔を見て愉快だとばかりに肩を揺らしている。

「ごめん、ごめん。怒らないで聞いてくれよ。ジャンのミカサに対する感情って憧れだと思うんだよね。ま、かなり熱烈だから、恋と勘違いするのも無理はないさ。ジャンの中のミカサって神格化されてるよね」

「おまっ、そんなズバズバと………憧れ、なのか?」

「うん。憧れ」

マルコは俺の長年の想いをたった一言で片付けてしまった。ただ、憧れ、って言葉に妙に納得してる自分がいる。確かに、色んな手を使ってアプローチかしたのは入団した頃だけでいつの間にか見てるだけで満足するようになっていた。マジかよ。

「ジャン、大丈夫かい?」

「大丈夫だ…憧れだったとあっさり納得した上にたいしてショックを受けてない自分にびっくりしてるだけだ」

「そうなんだ。まぁ、気づけたことはいいことだよ。それじゃ次はアルメリアのことだ」

そうだ。問題はアルメリアだ。愕然としている場合ではない、と直ぐ様立ち直る。

「泣き顔を、自分だけが知っているアルメリアを他の誰にも知られたくないっていうのは独占欲さ」












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