日の当たる窓辺の席を陣取って課題に取り組む。本来なら資料室でやるのだが、あいにく混んでいたので座学の教室に移動した。俺しかいなくて静かだから捗る。ちなみにマルコはバカ二人組に捕まって勉強を教えているのでここにはいない。

区切りがついたので一息吐く。ふと、外を見ればアルメリアがいた。何してんだ、と見ているとキョロキョロと忙しなく辺りを見回している。あれは俺を探してるな。経験則からわかってしまう。本当に、あいつは俺がいないとダメだな。ほっといたら見当違いな場所を探し始めそうなので、窓を開けてアルメリアを呼ぼうとした。

「アルメリア?」

あいつの名を呼んだのは俺じゃなく、エレンだった。たまたま通りかかったようだ。エレンのせいで俺はアルメリアに話しかけるタイミングを失った。びくっ、と身体を震わせたアルメリアは恐る恐る振り向いた。

「エレン」

「何キョロキョロしてるんだ。なんか探してるなら手伝うぞ」

アルメリアの顔を覗き込んだエレンの眉間にしわが寄る。アルメリアの様子がおかしいことに気づいたようだ。

「どうした。なんかキツそうだな…大丈夫か?」

エレンの気遣いにアルメリアの眉は下がって瞳が揺らいだ。それはアルメリアが泣く時の兆しだ。おい、待てよ。お前、俺以外のやつの前で泣くのか。しかもその相手がよりによってエレンかよ。ぶさけんな!!エレンの、俺以外のやつの前で泣くなよ!!一気に頭に血が上って窓枠に足をかけた。

「エレン、私ね…」

「おう」

「お腹空いちゃった」

ずるっ、と足が滑り、転けそうになった。アルメリア、お前…そりゃねーよ。激しい感情が萎んで椅子に座り込む。お前はサシャか、とツッコミを入れるエレンも呆れている。

「だって、お腹空きすぎて切ないんだもん」

「まぁ、わからなくもないけど…」

「でしょう!!」

「もうすぐ夕食だからそれまで堪えろよ」

「はーい」

「俺は中に戻るけど、アルメリアは?」

「私はまだここにいるよ」

「わかった。じゃ、また後でな」

「うん。また後でね」

ひらひらと振られていた手はエレンがいなくなると同時に力なく落ちた。俯くアルメリアは風に飛ばされるんじゃないかと心配になるぐらいに弱々しく見える。何とな無く声をかけられずにいると、ゆっくりと顔を上げたアルメリアが俺を見つけた。目が見開かれたがそれもほんの数秒で、くしゃりと顔が歪む。瞳の揺れが大きくなって、盛り上った水の膜が珠を結んで零れ落ちた。ああ、何だ。俺の前だったら簡単に泣くんだな。気づけば俺は窓を越えて、アルメリアの元へと駆け寄っていた。

「ジャンっ!!」

飛び込んできたアルメリアを受け止めて、胸に押し付ける。まるで隠すように抱きしめた自分自身に困惑する。相手が誰であろうとも俺は許せなかっただろう。涙を流すのは俺の前だけであって欲しいと思った理由はわからないままだ。





泣き虫の居場所
(泣くのは俺の前だけにしろよ)








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