腫れ上がった額を擦りながら辿り着いた医務室には誰もいなかった。適当に道具を取り出して丸椅子に座る。自分で処置をしようとしたが、医務室には鏡がなくてどうにも上手くいかない。諦めて氷嚢を当てるのに専念する。誰か連れてくれば良かったと思うが、あいつら全員、軽傷なんだから1人で行ってこい、と冷たかった。薄情なやつらだ。

対人格闘術の訓練でエレンと組んだはいいが、足払いされた拍子に地面とご対面してしまった。その後エレンを転がしてやったから勝負は引き分けだ。俺は断じて負けてないが、転ばされたところをミカサに見られちまった。しかも、ミカサはエレンの介抱してたし。俺には見向きもしなかったな…。

カッコ悪い姿を見せたこととエレンとの扱いの差に落ち込んでいると、ドタドタと騒がしい音が聞こえてきた。何だ、と顔を上げたと同時に勢いよくドアが開いた。おい、そんな乱暴に開けたら蝶番イカれるぞ。

「ジャン!!」

入ってきたのは息をきらしたアルメリアだった。アルメリアは俺の足元に膝をつくと両頬を掴んだ。そのまま引っ張るので前屈みになる。容赦ないので痛い。

「いっ!!首抜ける!!何してんだお前!!もうちょっと手加減し…、」

言おうとしていた文句が霧散する。鼻と鼻がくっつきそうなぐらい顔が近い。すでに潤みだしている瞳が目の前にあってドキッとして我に返る。何でだよ!!アルメリア相手にそんなわけあるか!!慌てて距離をとった。

「大丈夫?」

「ちょ…ちょっと怪我したぐらいで大袈裟なんだよ!!」

「だってコニーが!!おでこ打った際に目玉が飛び出して重症だって!!」

「んなわけあるか!!ピンピンしてるわ!!」

何故かアルメリアには誤報が伝わっていた。でこをぶつけたぐらいで目玉が飛び出すか。コニーの野郎、アルメリアをからかったな。あとで締める。

「なんだ、そっか………よかったぁ」

気が緩んだのか、座り込むと泣き始めた。よかった、と嗚咽の合間に何度も繰り返す。大袈裟なんだよ。訓練生にとって怪我なんて日常茶飯事だろう。

「怪我のせいで、じゃ、ジャンが、開拓地行きに、なったら、どうしよっ、て、ジャンがいなきゃ嫌だよ!!」

「(こいつは…)」

こうもストレートに言われると反応に困る。コニーの下手な嘘を本気にするなんてアホだ。でも、急いで駆けつけたり泣くほど心配してくれるのってアルメリアぐらいだよな…。

「大したことねぇって。んなとこにへたり込むなよ」

アルメリアの両脇に手を差し込んで持ち上げる。そのまま空いている椅子に座らせて、頭を肩口に引き寄せる。アルメリアは俺の腕の中に収まって泣きじゃくっている。ふつふつと沸き出てくる感情に顔がにやけた。にやにやした男と泣いてる女なんて第三者が見たら気持ち悪い光景だろうが、どうしたって頬が緩むのを抑えられない。

健気というかなんというか。アルメリアは一途に俺を必要としてくれるから悪い気はしない。普段はそんなこと欠片も思わないのに、泣いてるアルメリアがだんだん可愛く見えてきたのだから不思議である。




可愛い泣き虫
(気の迷いだろうけど)








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