訓練は厳しいが憲兵への道を着々と歩んでいる。潤いがない生活の中、彼女も出来て順風満帆…なはずなのに不満が一つある。その原因が何かもわかっていた。倉庫の壁に寄りかかって悶々としているとジャーン!!と、叫んでいるのが聞こえた。俺の悩みの原因だ。

「うわぁん!!ジャンっ!!」

「おい、アホ。どこ行くんだ。こっちだよ」

建物の影にいたので見つけられないらしく、逆方向を探しているので呼んでやれば泣きべそかいてるアルメリアが飛び付いてきた。今日は…なんだろう。理由なんてもはやどうでもいいような気がして好きなだけ泣かしておく。

「ジャン!!うっ、うぅ、うぅ〜〜〜」

「よしよし」

アルメリアが俺の胸に顔を押し付けてるのをいいことに空を仰ぐ。…いい天気だ。適当なことを考えながらも声と手はアルメリアを慰める。我ながら随分と器用だ。多少おざなりになってしまうのも仕方がないだろう。付き合っている男女が抱擁をすれば甘い雰囲気になりそうだが、アルメリアは涙と鼻水垂らして残念極まりない顔になっているのでぶち壊しである。どうしていつもこうなるのか。

俺たちは色々と順番を間違えたんだ。付き合う前から手を繋ぐや抱き合うといった行為をしていた。恋人になって改めてやったところで新鮮味がない。いつもと同じことをしている、とそんな感覚だ。もっとこう、恋人らしい雰囲気を味わいたい。端的に言えばイチャイチャしてぇんだよ。

「ずぴっ………うぐぅぅ」

「鼻水を垂らすなっ!!ほら、ちょっと顔上げろ」

「うぷっ」

あんまりだったので袖で顔を脱ぐってやると少しはマシになった。頬と瞼は淡く色づき、濡れた目で見上げてくる。心臓が跳ね上がる。近すぎる距離や密着した身体に妙に意識してしまった。さっきまで色気ねぇなとか思ってたのに…そんな顔されるとクる。

「お前な、この状態なんとも思わないのか?」

「…何が?」

遠回しすぎて伝わらず、アルメリアはきょとんとしている。ぴんとこないらしい。俺としては恋人らしいことをしたいと思うのだけどアルメリアは違うのか。俺のこと好きなんだろう?俺とて健全な男子で、ぶっちゃけ欲求不満だ。

「全部アルメリアのせいだからな!!」

「何の話し、っ!?」

ムラムライライラしてほとんど衝動的だった。両手でアルメリアの頭を挟み込む。その後の動作はやけにゆっくりになった。目を瞑り、半開きになっている唇に唇を重ねた。初めて味わう柔い感触に頭の芯が痺れる。なんだこれ、想像以上に気持ちいい。技巧なんてもんはない。ただ重ねるだけだがそれでも充分だった。ずっとこうしていたいが、がっつきすぎて嫌われたくはないので名残惜しくも離れる。冷静になると恥ずかしくなってきて頬が熱くなったが、俺よりもアルメリアのほうがヤバかった。

「顔酷い」

「顔酷いって酷い!!」

アルメリアの首から上は真っ赤だ。頬とかそんなレベルじゃない。全体と言っていいだろう。眉は下がり、唇を結んでぷるぷる震えている。衝撃が大きかったようで泣き止んでいた。

「…今日はもう泣かなくていいのか?」

「それどころじゃない!なんで、急にっ…もうっ!!バカ!!」

口ごもった末に掌で顔を包んで隠してしまった。なんか手まで赤くないか?照れすぎだろう。妙な胸の高鳴りを覚える。

「嫌?」

「いきなりだったからびっくりして恥ずかしかっただけ………嫌なわけないよ。ジャンのこと好きだし」

最後に聞かせるつもりがないような小声で、私もしたかった、とか言うもんだから表情筋が緩んでにやつくのを止められない。なんだ、こいつも俺と一緒なのか。それがわかって蟠りとか苛立ちがふっとんだ。

「くっ…なんだったらもう1回しようぜ」

「今日はもういい!!笑わないでよジャンのバカ!!!」

半泣きになりながら怒るアルメリア。恥ずかしがって逃げようとしたので腕の中に閉じ込める。こんな可愛い反応が見れる上に泣き止むなら今度からこの手を使おう。





泣き虫に口づけを
(もう一回してぇな)








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