愛した夜が明ける | ナノ







俺は何だ。俺は兵士で、いや違う。俺は戦士だ。ベルトルトとアニと一緒に故郷に帰るんだ。それじゃ、彼女はどうなる?置いていくのか?そうじゃない、俺は間違ってしまったんだ。彼女は俺達の敵だ。いずれ滅ぼす人類にどうして心を寄せてしまったのだろう。もう遅い。戦士にしろ、兵士にしろ、今さら引き返せない。どうすればいいんだ。どれが正解なんだ。そもそも俺はどっち側なんだ。わからない。何もわからない。

ガラガラと音を立てて自我が崩壊していく。自分が自分でなくなるような気がして、怖くなって縋ったのは仲間ではなく愛しい人だった。

「アリシア、アリシア、アリシアっ」

バカの一つ覚えのように彼女の名前を呼んで抱き締める。俺を支えきれずにアリシアは尻餅をついたが、それでも止められない。駄目だ、今アリシアを離したら俺は壊れてしまう。

「ライナー、苦しいっ…」

アリシアが腕の中で悲鳴を上げているというのに加減が出来ない。小柄な彼女を力一杯抱き締めたらどうなるか。そんな些細なことさえわからないほどに混乱していた。

「どうしたの、ねぇ、ライナー?」

「アリシア、俺は、いったい何なんだ」

兵士としての責任、戦士としての任務。相容れない2つに責め立てられて神経をすり減らす。ああ、気持ち悪い。目を瞑って吐き気に耐えていると頬に手が添えられる。ゆるゆると瞼を上げると、アリシアの澄んだ瞳と重なった。

「落ち着いてライナー。私の知ってる貴方は面倒見がよくて皆から頼られる兄貴分じゃない。そして責任感の強い兵士よ」

「兵士…」

「そう。貴方は兵士であることに誇りを持ってるじゃない」

自分では判別つかなかったことが明言されることによって実感が伴ってくる―――そうだ、俺は兵士だ。ぼやけていた視界が開けてくる。憑き物がおちたかのように軽くなる。落ち着いてくると取り乱したのが恥ずかしくなった。

「そう、だな。そうだったな」

「大丈夫?」

「アリシア…すまない。みっともないところを見せた」

「いいのよ、気にしないで。それよりも何かあったの?」

心配そうに問われて己の精神状態を分析する。どうしてあんな恐慌状態に陥ったのか自分でもわからない。情緒不安定なんだろうか。洒落にならんな。

「ちょっと疲れてるだけさ」

「そうね。貴方は何でも抱え込んでしまうもの。無理しちゃダメよ。私には甘えてね」

「あぁ。ありがとう」

彼女の優しさが染み渡る。俺はアリシアのこういうとこが好きなんだ。今度は苦しくならないよう、労るように抱き締める………何か忘れてるような気がする。とても大事な何かを。思い出そうと記憶を探るが結局はわからなかった。忘れてしまうぐらいなら、たいしたことはないのだろう。そう結論づけると引っ掛かりはなくなる。今はただ、腕の中の温もりを感じていたかった。





光輝く庭で見たファントム








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テーマ「人外ファンタジー」
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