名前ーーー!!と叫ばれて肩が跳ねる。な、何。今の声、アヤトみたいだけど。扉を凝視していたら勢いよく開いた。入ってきたのは物凄く焦った様子のアヤトだ。

「おい!!あれどうにかしろよ!!」

「え、何?」

「アヤト」

「げぇ」

遅れて入ってきたシュウさんにアヤトは顔を顰める。眉を寄せて怒ったようにアヤトを呼ぶシュウさんに違和感を覚えた。いつものダルダルした雰囲気が一変、しゃんとしている。

「女の子の部屋にノックもしないでいきなり入るなんて失礼だろう」

我が耳を疑った。シュウさんがすごくまともなこと言っている。自分だって勝手に人の部屋に入ってくるくせに…どいうこと。混乱しているとシュウさんは私の前で片膝を着いた。

「悪かったな。アヤトにはきちんと言い聞かせておくから」

綺麗に笑うシュウさんが私の頭を撫でる。それはもう壊れ物でも扱うように丁寧だ。何が起きてるの。ギギギッ、と鈍い動きでアヤトの方を向くと目をひん剥いている。ダッシュでアヤトを部屋の隅に連れて行く。

「誰あれ」

「シュウ」

「いやいやいや。見た目はシュウさんだけどあれはシュウさんじゃない」

「シュウだっつーの!!」

「嘘だ!!」

恐る恐る振り向けば微笑まれた。素敵な笑顔だけど普段のシュウさんを知っているせいで恐怖しか感じない。アヤトにいたってはシュウさんを直視出来ないようだ。

「本当何があったの?病気?」

「俺様がリビングに行ったらああなってたんだよ!!」

「そんな馬鹿な!!何かあったでしょう何か!!」

「何かって、そういえばシュウの傍に空のティーカップが転がってたが…まさか」

「レイジさんか!!」

その可能性が高い。ここ数時間の間に何か口にしましたか、と問えばテーブルに置いてあった紅茶を飲んだ、と返ってきた。それだーーー!!!新薬の実験でもするつもりだったんだ!!なんでそんなものを放置しておくんだ!!!あのメガネは!!!

「どうすんのあれ!!」

「レイジに言って解毒剤作らせるしかないだろう」

「その間のこと言ってるの。誰が面倒見るの」

「自他ともに認めるシュウのエサであるお前しかいないぜ」

「いやーあのシュウさんを相手にするのはちょっと」

「名前」

二人でヒソヒソ話していたらお腹に腕が回って抱きかかえられた。シュウさんはそのまま後退するとベッドに座り、私を自らの膝に乗せた。

「俺にも構え」

「えぇぇぇ!?」

「キャラ違いすぎんだろう………吐きそう」

「そこまで!?」

アヤトは今のシュウさんを受けいれられないようで放心状態になっている。アヤトが役立たずな今、自力でどうにかするしかない。絡みつく腕を引き剥がそう躍起になるがびくともせず、それどころか拘束が強くなる。耳朶に唇を押し付けられて変な声が出た。

「俺に嫉妬させるためにアヤトばっか構ってんの?悪い子だな」

間近で聞こえる低音ボイスに力が抜けて前屈みになる。クスクスと笑いながら耳真っ赤、可愛い、と囁かれる。止めを刺された。

「名前!!バッカ、惑わされてんじゃねぇよ!!」

「無理、もう無理。私は力尽きた。人類の平和はお前に託す」

「人類の平和!?意味不明なこと言ってんじゃねぇ!!つうか、こんなの俺様に押しつけんな!!」

「アヤト。そろそろ空気呼んで出て行けよ。名前もアヤトばかり見ないで俺を見て」

シュウさんは私の脇に手を差し込んで持ち上げて身体を反転させた。向き合うと私を見つめる瞳が甘く溶けた。ああ、ヤバい。吸い込まれる。優しく扱われたことないから心臓が爆発しそう。このまま身を委ねてしまいたいけど、私の身が持たない。

「あ、アヤト助け、って!!いない!!!」

アヤトが忽然と姿を消した。どこ行ったあいつ!!身体を捻って背後を見れば開けっ放しになっていたはずの扉がきっちり閉まっていた。私に全部押し付けて逃げたな!!アヤトの裏切り者ォォォォォ!!!

「二人っきりだな」

「ちょ、ま、えぇ!?」

「待たない」

止める間もなくキスされた。唇を舐められ思わず口を開くとすかさず舌が侵入してきた。吃驚して離れようとしたら掌で背中を押されて余計に密着してしまう。鼻から抜ける声が妙に甘ったるい。

「ふぅ、ぅ…やぁ」

「ん…名前泣かないでくれ。お前の悲しむ顔は見たくない」

そんな。いつもはもっと泣けとか言うくせに。パニック起こして泣きじゃくる私にシュウさんはキスの雨を降らせる。額、米神、鼻、頬、最後に眦に唇を寄せて溜まっている涙を舐めとる。優しい抱擁と慰めるようなキスに少しずつ落ち着いてくる。

「嫌だったか?」

「ち、違います。急だったから吃驚しただけです」

「そうか、良かった。名前に嫌われたら生きていけない」

「うぅ」

「名前は俺が好きか?」

不安げに覗き込んでくるシュウさんに心が掻き乱される。言えるわけがない。シュウさんは薬のせいでおかしくなっているだけなのだから。けど、私のシュウさんへの想いは本物で、縋るような眼差しに蓋をして固く閉じたはずの想いが溢れてくる。

「好き、好きです。大好き」

「俺は愛してるよ」

その微笑みも言葉も薬のせいだとわかっているのにどうしようもなく嬉しい。これ一時の夢でも構わないから溺れてしまいたい。近づいてくるシュウさんに応えるように目を閉じた。

「名前………」

「………シュウさん?」

「ぐぅ」

「へぇ?」

ぐらっ、と傾いた身体を受け止める。急に動かなくなったシュウさん、良く聞けば寝息を立てている。寝るの?この状況で寝ちゃうの?シュウさんらしいといったらシュウさんらしいけど。一気に力が抜けてシュウさんをベットに寝かせた。どうしよう。私じゃシュウさんを彼の自室まで運べない。かといって他の兄弟が運んでくれるわけない。ここ、私のベットなんだけど…私はどこで寝ればいいの。すやすやと気持ちよさそうに眠るシュウさんを起こす気にもなれなくて途方に暮れた。










その後、丸一日眠って目覚めたシュウさんはいつものシュウさんに戻っていた。紅茶を飲んだ後の記憶はないらしい。正常なシュウさんに歓喜する私は大変ウザがられた。やっぱシュウさんはこうでないと!!と、喜ぶ反面、残念がる私もいる。常時あの状態では困るけど、たまに、たまーにでいいから優しく甘やかしてほしい………無理か。だってあれは薬のおかげだもんね。薬を飲ませるのは抵抗がある。何より、私は正気な状態のシュウさんに自らの意思でしてほしいと思っている。そうは言っても、あれだ。そんな日は一生来ないよね。はぁぁぁ。



夢は醒めていつも通りの虐げられる日々が続く。


「あんた目障り。俺はこれから寝るんだからどっか行ってくんない?」

「(通常運転!!)」

「おい聞いてるのか。邪魔だって言ってるんだよ」

「あーはいはい。そんな邪険にしなくても今すぐ退散しますよぉーだ」

「………名前」

「何ですか。昼寝するんじゃないんですか?」

「名前は俺のこと好きか?」

「は?」

「俺は愛してるよ」

ニヤリ、シュウさんは口角をつり上げた。





逆さに数えるアイラブユウ










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性格変化ということであんた誰?レベルを目指しました。書いていて大変楽しかったです。シュウさんでこんなに甘くなったのは初めてだ。

シュウさんの見た目が王子様っぽいので王子様キャラにしようと思ったんですが、途中から王子様キャラってどんなんだ、となり結局迷走してしまいました。

この設定、面白いので他のキャラでも書いてみたいですね!!超紳士なライトとか(笑)



宇治様、リクエストありがとうございました!!お持ち帰り、苦情等は宇治様のみ可です^^



お題、花畑心中様より
「逆さに数えるアイラブユウ」使用







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