廊下を歩いていたら佐助君、と呼び止められ、今日何個目かになるマフィンを貰った。ありがとうとお礼を言えばその子は頬を赤らめながら立ち去った。うん、恥じらう女の子は可愛いらしい。

「さっちゃん大量だね」

「うわっ!!」

肩越しに手元を覗き込んでいるの名前だった。いつの間に…。というか、近い。睫の一本一本まで見える距離だし、背中に胸が当たっている。俺、一応男なんだけど。いくら幼馴染みとはいえ、警戒心なさすぎでしょう。意識されてなくて腹立つが怒っても仕方ないので内心の憤りを隠して自然に名前を引き離す。

「俺より伊達の旦那の方がヤバいでしょう」

「あの人は別格だよ」

「確かにね」

名前が腕の中に溢れているマフィンを半分持ってくれた。そのまま並んで歩き出す。

「こんなに食べられるの?」

「無理かな」

家庭科の授業で作ったマフィン、女子は好きな男子や気になる子にあげているようだ。自慢じゃないけど、俺も結構貰っている。が、正直、甘いものはそんなに得意じゃないから最終的には名前と旦那の腹に納まる。

「佐助は作るの専門だもんね。てなわけで、はい」

名前は眼を輝かせると片腕突き出した。掌を見つめること数秒、それが何を意味するのかわかるがあえて訊いてみる。

「俺様の作ったマフィンが欲しいの?」

「Yes!!幸村に食べられる前に貰いに来た!!」

「だと思った」

予想通り過ぎて溜息が出てくる。俺の幼馴染二人は揃いも揃って甘党である。そのせいで俺は昔から二人のためにお菓子を作っている。食べるの専門と作るの専門、見事に需要と供給が釣り合っていた。

「もしかして幸村にあげちゃった!?」

「ちゃんと用意してありますぅー」

「やった!!ありがとう佐助!!」

「ドウイタシマシテー。てか、名前自分の分は?」

「授業中に食べた」

「あぁ、そう…」

がくっ、と項垂れる俺に名前はさっちゃんどうしたー?とのんきだ。男なら好きな女の子の手料理が食べたいわけで…名前が作ったマフィンを食べられるかもしれない、と期待したのに。俺の淡い想いを返してくれ。

「それにしても本当、佐助はモテるね」

「そう?」

「幼馴染の私が言うんだから間違いないよ。こんだけモテるんだからそのうち佐助にも彼女が出来るんだろうなー。そしたら彼女さんに悪いし、気軽にお菓子貰えなくなるよね」

「はっ?」

腕の中のマフィンに目線を落として寂しそうな様子だ。冗談なんかじゃなく、本気でそう思っているのだと理解して唖然としてしまった。彼女出来たらお菓子貰えない…って、え。何にその理屈。別に彼女出来てもお菓子貰うぐらいい問題ない…ていうか、俺は好きな子以外を彼女にするつもりないし!!俺に彼女が出来たら俺の作ったお菓子が食べられなくなるから残念ってこと?それだけ?

フリーズする俺を名前は不思議そうに見ている。大丈夫か、と眼前で振られていた手を掴んだ。

「へー。名前は俺のお菓子があればいいんだ。俺自身はどうでもいいんだ…」

「え。そんなことないから。今までずっと一緒にいたんだから、急に佐助が離れてったら寂しいよ」

「あっそう(良かった…)」

「でも、佐助って浮いた話しないよね。好きな子いないの?」

「それは!!………い…いないよ。今は旦那の世話で手一杯だし」

「ああ、そうか。幸村は世話がかかるもんね」

「そうだね…」

ごめん、旦那。逃げの言い訳に使っちゃって。けど、今ので納得する名前もどうかと思う。

肩を落として、スキップしている名前の後に続いた。まだまだ幼馴染兼専属パティシェからは脱却できそうにない………まぁ、俺の作った菓子を食べてにこにこしている名前を見ると、もう暫くはこのままでもいいかなと思える。だって、名前の一番可愛いい顔―――お菓子食べてるときの顔を独占できるんだから。勿論、幼馴染のまま、っていうのはありえないけど。

「お・か・し!お・か・し!早く食べたいな〜」

「そんなに俺様が作ったお菓子好きのなの?」

「当たり前じゃん」

名前がスピードを落として俺の隣に並んだ。左斜め下にあるのは満面の笑顔。

「佐助の作ったお菓子が一番好き!!」

今の言葉、佐助が一番好き!!だったらすげぇー嬉しかったのに。





お菓子>俺










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なんかほのぼのというより可哀想な佐助になったwww片思い佐助書くのは楽しかったです。いつか不等号がお菓子より大きくなるといいね!!頑張れ佐助!!(投げやり)


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