やかましい、と怒鳴りつけたくなるほどの足音がこちらへと向かってきてる。書類に目を通していた名前が顔を上げ、嘆息すると同時に障子が勢いよく開いた。

「名前!!」

「平助、少し落ち着いていら「おりゃ!!」

平助はかけ声と共に何かを蒔いた。空中でぱっと広がった桃色がはらはらと舞ってから着地する。何が起きたかわからないまま、畳へと落ちたそれを摘んでみると小さく可愛いらしい花片だった。平助は小脇にザルを抱えてしたり顔をしている。

「桜、綺麗だろ?」

「掃除どうするんだ」

「えぇーそっち!?」

まさかそんな反応が返ってくるとはと落胆する。これが千鶴あたりなら手放しで喜んでくれるだろうが相手が悪かった。

「何がしたい平助」

「桜が咲きましたよってお知らせに」

「それで?」

「せっかくだから箱詰めしてる名前を外に連れ出そうかと思って」

箱詰めって…と閉口している名前だが平助の表現はあながち間違っていない。せっかく雪が溶けて桜が咲く時季、つまり宴の季節がやってきたのに名前は仕事に忙殺されて部屋に籠もりっきりである。外出どころか庭を観賞する暇もないらしい。

「左之さんと新八っつぁんは宴会するき満々だぜ!!千鶴も酒と料理準備してるし近藤さんから許可もらった!!」

「土方さんからは?」

「細かいことは気にすんなって」

もらってないな。まぁ、局長が許可したなら副長も許可せざるおえない。外堀から埋めていこうという作戦は総司の入れ知恵だろう。妙なところで頭の回転が速い幼馴染みが脳内でにやりと笑う。

「仕事もしないでなにやってんだ」

「気分転換したほうがいいよ。籠もってばっかは身体に悪いし……だからたまには、な?」

怒られるとでも思っているのか、少々控えめである。ただ単に馬鹿騒ぎをしたいだけかと思っていたが、そうでもないようだ。平助に教えてもらわなかったら桜が咲いていることに気づかないままだった。

「昔は逆だったのにな」

「何が?」

「私が一番に最初に桜が咲いているのを見つけてそれを真っ先に平助に報告してた」

「そーいえばそうだった………あれ、何で近藤さんや土方さんじゃなくて俺だったの?」

「平助の喜ぶ顔が見たかったから」


平助、桜が咲いたぞ。今日から宴だな。


無礼講でお酒が飲めるから喜んでいただけかもしれないけど、とても嬉しそうに笑うから。それが見たくて春になると馬鹿みたいにそわそわして、一つでも咲いてるのを見つけると走って平助に教えに行っていた。

「………」

「平助、さっきのもう一回やって」

「え、あ、うん。いくぞ」

平助はザルの中の桜を一握りすると散らした。視界いっぱいの花片に顔が綻ぶ。さっきは可愛げのない言葉がでたが本当は目を奪われていたのだ。人の手によって作り出された桜吹雪でも充分綺麗だから。

「千鶴ちゃんの手伝いでもするか」

「いいの!?」

「今更だろう。その前に部屋の掃除しないと」

「じゃ、俺、箒とちりとり持ってくる!!」

「いってらっしゃい」

勢いよく飛び出していった平助を見送ってから名前は文机に散乱する書類を片付け始めた。








がむしゃらに走っていた平助だったが、急に立ち止まりるとそのまましゃがみ込んだ。カァァと血が上って熱い。衝動にまかせてうわー!!と叫びたくなる。

「不意打ちすぎ!!」

何の脈絡もなくあんなこと暴露して。こっちだってすごく嬉しかった。彼女の大好きな近藤でも土方でもなく自分の所へいの一番に来てくれることが。だから、例え花が咲いたのを見つけたとしても知らないふりして、名前が走ってくるのを心待ちにしていた。

「つーかさっきの名前、反則だろう」

二度目に桜の雨を降らせた時、目を細め緩やかに口角を持ち上げた。まるで愛おしい人でも見つめるような表情は………桜より綺麗だった。





どうにかなってしまいそうだ
(急に女の顔しないで)(ドキドキするから)







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何だろうこの甘酸っぱい感じは!!青春的な物を書くときは平助に限りますね(笑)無自覚で平助を振り回す夢主を書いているのは楽しかったです。



お題サイトrewrite様より恋になる前に十題
「どうにかなってしまいそうだ」使用



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