橋を渡っている時だった。空気を裂くように響いた一発の銃声を合図に突如として開戦した。どうやら幕軍は奇襲にあったらしい。三人揃ってしゃがみ込み、様子を窺えば眼下には新政府軍の兵士達が集まりつつある。体勢を低くしてるせいかこちらに気付いていない。
「どうやらここでお別れのようだ。私は本陣に戻るよ」
「戻るってどうするおつもりですか!?」
「こん中を突っ切ってくのかよ!!」
「それしかないだろう」
新選組から離れて、二人で生きると決めた平助と千鶴ちゃんを近くまで見送っていく最中だった。こうなればゆっくりお別れをする暇はない。私は一刻も早く土方さんの元へ戻らなければいけないし、二人は安全なとこまで逃がさないと。
「どちらにしろ敵陣突破しないと土方さんのとこに行けないんだ」
「だからって無茶です!!」
「そうだよ!!ここは三人でどうにかやり過ごして機会を待とう!!」
「それは出来ない。敵兵の注意が私に集まってる間に走るんだ」
怯える千鶴ちゃんを守るように肩を抱く平助。彼らは生きる覚悟を決めた。二人ならこの先何があっても大丈夫だと思えるから、こんなところで死なせたくない。死なせるわけにもいかない。
「新選組も土方さんも私が守るから安心して」
「それは………」
「千鶴ちゃん泣かすなよ平助。元気でね千鶴ちゃん」
「名前っ!!」
「名前さん!!名前さんっ!!!」
欄干を跨いで川原へと飛び降り、着地と同時に斬り伏せる。立ち上がり様に二人目、返した刃で三人目。背後からの攻撃をかわしながら身を翻し、一閃。これで四人目。
「貴様!!」
「遅い」
「ぐはぁっ!!」
派手な音に、赤く染まる水面。五人目は川へ落ちた。私が着々と敵を倒している間にも平助と千鶴ちゃんはもたもたしており逃げようとしない。そうこうしているうちに平助達を見つけた敵方が彼らに向かって動き出そうとしていた。
「何してるんだ平助!!さっさと連れてけ!!!」
「だけど!!」
「平助ぇ!!」
「っ…千鶴、行こう!!!」
「でも!!」
平助が手を引いても彼女は頑として動かない。そういえば、千鶴ちゃんはわりと頑固だった。ここは戦場で、命の取り合いをしているというのに京での日々を…彼女と過ごした日々を思い出す。
同姓の友達なんて始めて出来たからどう接すればいいかわからなくて戸惑うこともあったけど、私は君に出会えて色んな話しをして笑いあえてとても楽しかったよ。ありがとう、千鶴ちゃん。私と友達になってくれて。
「名前さん!!」
相手の胸を貫いたことで噴き出した鮮血の向こう側、大きな眼に涙を溜めながら千鶴ちゃんが叫んだ。
「私、信じてます!!昔のように縁側でお茶でも飲みながら名前さんと他愛のないお話しする日がまた来るって信じてます!!」
今にも泣いてしまいそうなのにそれでも不器用に笑うから、だから約束するように刀を突き上げて私も笑ったんだ。
そんな日が訪れることを祈ってまた 笑いあった
(苗字名前 土方陸軍奉行並に続き箱館の地にて討死)
--------------------
平助が出張ってますが千鶴ちゃんとの友情夢だと言い張ります。今回はシリアスになってしましまいましたが、今度はガールズトークしているほのぼのな二人を書きたいです。
お題、選択式御題様より
「そんな日が訪れることを祈ってまた 笑いあった」使用