私たちの通う嶺帝学院高校の図書室は蔵書が多い。量があればジャンルも豊富で、流行りのものから誰が読むかわからない専門書まである。普通の本屋では手に入らないような本も置いてあるからルキの知識欲は刺激され足繁く通っている。私は本は読まないので図書室に興味はないけど、ルキが行くので毎回ついていく。

私の背より遥かに高い本棚がいくつも聳え立って迷路のようになっているが、ルキは迷うことなく進む。奥まった場所にある外国書が集まった一角に来ると一冊抜き取り、熱心に読み始めた。ちらっと表紙を見ると日本語どころか英語ですらない。記号にしか見えないんだけど何語?

「(暇だなぁ)」

この本棚には私が読めそうなものはない。そもそも読む気もないし。本読むぐらいならルキに構いたい………邪魔にならない程度ならいいよね。ちょっかいかけちゃおう。

腕と腕をピタリくっつけてみる。こうして並んでみるとルキの背が高いことがよくわかる。次に頬を擦りよせてみた。服のざらざらした感触しかしなくて不満。ルキは黙々と本を読んでいる。この程度なら気にならないようだけど、これ以上やると怒られる上に図書室の出入りを禁止されそうだ。ルキと一緒にいられなくなるのは嫌。もう、ルキは本ばっかりなんだから。

目の前の赤い背表紙を睨む。本よ、君たちに罪はないけど、ルキを夢中にさせて私を蚊帳の外にしてしまうから君たちは嫌いだ。憎し、とひたすら睨んでいると笑い声が降ってきた。仰ぎ見るとルキが口元を押さえながら忍び笑いしている。

「なぁに?」

「くっ…本は読むものであって睨み付けるものではない。名前も読んだらどうだ?」

「読めそうな本ないんだもん」

「お前は本全般がダメだろう」

仰る通りだけど、暗に馬鹿にしてるのだろうか。喋ってる間もルキの視線は本に固定されたまま。少しぐらいこっち見てくれてもいいじゃない。あからさまに拗ねていたらルキの片腕が私の腰に巻きついた。

「いちいち拗ねるな。あまりうるさくするなら今後はつれてこないぞ」

「ごめんなさい!!静かにするから許して!!」

「わかったなら口を閉じてろ」

「………」

「………」

「………ルキ」

「………一分と黙ってはいられないのか」

「静かにするから!!一つだけお願い。いい子に待ってられたらご褒美ちょうだい」

「なぜご褒美をやらねばならない。お前が勝手についてきてるんだろう」

「そういう細かいことは気にしないの!!ね、お願い」

「お前は自分の立場がわかってないようだな。躾し直す必要があるようだ」

「もー!!そういうのいいから!!ルキ!!」

「名前…はぁー…わかったから喚くな。集中出来ない」

ルキの目がやっとこっちを向く。ルキ、と唇を突きだすとため息をつきながらもキスをしてくれた。

「今のがご褒美でいいのか?」

「こんなんじゃ足りないわ」

「強欲なやつだ」

読書を再開するルキ。私を腕の中に収めたまま片手で器用に読んでいる。私は上機嫌なまま大人しく抱かれる。ルキの読書はまだまだ終わりそうにないけど静かに待っていよう。いい子にしてるから、とびっきり甘いご褒美をちょうだいね。





わたしたち、強制ハッピーエンド









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リハビリ、ということで短文です。ルキ様はこんなに甘ったるいだろうか、と思いながら書きました。たまには甘いルキ様もいいよね!!



お題、誰そ彼様より
「わたしたち、強制ハッピーエンド」使用



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