「誰だてめぇ」

「三つ子の叔母の名前だけど」

夜会も中盤。挨拶回りも終えたのでさっさと引きあげて休憩室で休んでいた。そこにシュウとレイジとスバルがやってきた。彼らも抜け出してきたようだ。シュウは向かい側のソファーに、スバルは私の隣に座った。レイジは紅茶の準備をしている。

「別人じゃねぇか」

「否定はしないけど見る度に言うのはやめてくれないか」

スバルの珍獣でも見るような目に辟易する。これで何回目だろうか。普段の私とのギャップがありすぎて信じられないようだ。もう何度も見ているのだからいい加減受け入れてほしい。

「二重人格だな」

「そこまで!?」

「貴方達、お黙りなさい。誰か来ますよ」

レイジに言われて口を噤んだ直後、ノックが鳴った。これが三つ子だとしたら勝手に入ってくるから、あいつらなわけがない。ということは………。背筋を伸ばして声と表情を作る。

「入ってちょうだい」

「失礼いたします」

「何の用かしら」

「名前様にお届け物がございます」

壮年の使用人が抱えているのは真っ赤なバラの花束だった。私への贈り物らしい。誰からかきくと懇意にしている…といえば聞こえはいいが、家名に擦り寄ってくるうちの一人だった。そういえば彼は私の気を引くのに一生懸命だったな。

「私が代わりに受け取りましょう。こちらへ」

「お願いいたします」

近くにいたレイジが受け取り、私へ手渡す。ふっくらとした花弁は瑞々しく、甘い香りが鼻腔を擽る。思わず頬が緩んだ。

「綺麗なバラね。名前は喜んでいたと伝えてちょうだい」

「かしこまりました」

「ありがとう。下がりなさい」

「失礼いたします」

恭しく頭を下げた使用人は退出する。ドアがきっちり閉まって完全に足音が聞こえなくなってから力を抜いた。溜息が自然と出てくる。

「あー…シュウじゃないけどめんどくさ」

「…なにがめんどうなわけ?」

「このキャラ作るの」

「ふーん。俺はこっちのあんたも嫌いじゃねぇけど?」

こっちって…高飛車で鼻持ちならない女がいいのか、シュウは。信じられない気持ちでシュウを見ると頬杖ついてニヤニヤしている。冗談なのか本気なのかわからない。

「シュウ、お前………趣味悪いな」

私だったらこんな女は好かないぞ、と言うとシュウは半眼になった。嘆息をもらすとソファーに身を預けると瞼を閉じた。もう話す気はないようだ。何その反応。

「間違ったこと言った?」

「猫を被っている本人が言いますか」

「そうだけどさー」

何故かレイジにまで呆れられてしまった。こんなお高くとまった女どこがいいんだかわからない。

「そんなことより花を寄越しなさい。抱えたままでは萎れてしまいますよ」

「お願いします」

こんなに綺麗なのに早々に枯れてしまっては勿体ない。すぐさま渡すとレイジは一本ぬきとって茎を折って短くし、私の耳の上に差しこんだ。微調整をして出来に満足したのか目を細めて笑う。

「お似合いですよ」

「…どうも」

何故いきなりする。しかも様になってるってどいうことだ。レイジの気障ったらしい行動が気恥かしくて髪飾りになった花を頻りに撫でていると強い視線を感じた。こっちはこっちで…もう。

「スバル、気持ちはわかるがけどいい加減にしてくれ」

「仕方ねぇだろう。服装と相まって猶更見慣れねぇんだから」

「服装ねぇ…」

裾を持ち上げて落とすとフワリと広がった。姉さんと違ってドレスなんてほとんど着ないから無理はない。自分で見ても違和感しかない。

「ま、似合わない格好はするものじゃないってことだな」

「はぁ?誰も似合わないなんて言ってねぇ。むしろ…」

「むしろ?」

「………な、んでもねぇよ!!こっち見んなっ」

「いだっ」

頭を掴まれ、反対方向へ向かされた。首が、グギって、変な音がした。シュウが眉根を寄せて迷惑そうな表情をしている。騒いでいるのは私じゃなくてスバルだ。

「スバルうるさい。あと顔があ「うっせぇぞシュウ!!黙れ!!」

「いたぁぁぁぁ!!スバル!!手を放せ!!もげる!!」

怒鳴った際に力んだようでさらに捻じれる。悲鳴交じりに叫ぶと解放してくれた。あまりにも痛すぎて首が動かせない。本気で捩じ切られるかと思った。吸血鬼の力ならそれも出来るのだ。恐ろしい。

「わ、わりぃ」

「お前、お前って子は………はぁ。もういいや」

なんかどっと疲れた。怒る気力もなくしてソファーに沈む。そのうちに眠くなってきてうとうとしていると誰かに肩を揺さぶられた。こんなとこで寝るな、みたいなことを言っている。煩いなぁ。少しぐらい眠らせてくれ。起こそうとする手を払って逃げるように身体を丸めた。諦めたようで振動はなくなったが、代わりに何かが被せられた。目は瞑ったまま、触って確認するとそれは上着のようだ。わざわざこんなものかけなくてもいいのに。そう思いつつも上着を口元まで引き上げてしっかり被る。

こんな一族の者たちには見せられない姿を晒せるのは甥っ子達や兄弟達、身内の前だけだ。彼らにとって私は魔王の娘である必要がないから、自然体でいられる。それが私には有難い。なんやかんやで、

「お前たちの傍が一番落ち着く…」

何となしに呟いたら空気が和らいだような気がした。





叔母兄弟と夜会
(私は私でいられる)










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夜会、寡黙組verです。心なしか普段より優しいです。



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