免許をとって車を購入したのは兄弟達のパシリになるためじゃない。ドライブをするためだ。甥っ子達は連れずに、自由気ままに愛車を走らせると日常から解放された気がして楽しい。溜まりに溜まったストレスを発散させるべく、日が落ちきらないうちに起きて車に乗り込んだ。よし、今日は海でも見にいこう。大雑把に目的地を決めて発車した。通りに出て、人が行き交う街中を抜けて海沿いを走る。ちらっと見た海は夕日を浴びてキラキラしていた。ほんの少し窓を開けると風と一緒に潮の匂いが入ってくる。んー気持ちいい。なんかワクワクしてきた。テンションが上がって、ラジオから流れる曲にあわせて鼻唄を歌う。

「フッフーフンーフ〜」

「その鼻唄やめろ。不愉快だ」

「ほわぁぁぁ!?」

一人だけの空間に誰かいる。いきなり声をかけられたもんだから心底驚いてハンドルを左に回し、対向車線にはみ出してしまった。スポーツカーを運転しているお兄さんの目と口が大きく開かれて、けたたましくクラクションが鳴る。頭を真っ白にしたまま、反射的にハンドルを右にきって間一髪で回避し、どうにか持ち直してから路肩に停止させた。不規則に動くはずの心臓は乱打し、額には変な汗が滲んだ。

「――――はぁぁぁっ…」

無意識のうちに止めていた息を長く吐き出す。ぶつかるかと思った。ハンドルにもたれってぐったりしていると後部座席から身を乗り出したシュウが頭を擦りながら睨み付けてくる。

「おい下手くそ。頭打ったんだけど」

「シュウが驚かせるから!!いや、なんでいるの!?」

「眠かったから」

その一言で何もかもわかってしまう。今日は私の愛車を寝床にされたようだ。鍵をかけてたのにどうやって入り込んだ………そういえば車に乗る前に忘れ物に気づいて屋敷に戻ったんだ。その間にか。

「いるならいるって言え!!」

「は?気づいてなかったのか?」

「気づくか!!なんでわざわざ人の車で寝る」

「別に寝れればどこでもいい」

「だったら道路で寝てろ」

いっそ轢かれてしまえ、と言外に仄めかしたのがわかったようで無言の圧力をかけられる。気にするものか。それよりどうしよう。シュウを連れ帰ってからまたドライブするのも面倒だ。

「さっさと出発しなよ」

「何ナチュラルに同行するつもりでいるの」

「家は弟達がうるさいから、まだこの車で寝てたほうがマシだ。あんたが安全運転を心がけて聞くにたえない鼻唄を歌わなければな」

「………」

本気でそこらへんに落としてってもいいんじゃないかと思う。釈然としないまま、招かねざる客とのドライブを再開する。その後は特に問題もなく走り続けて、海を臨める駐車場に停めた。すでに日は沈んでおり、空の一部に名残を残すのみだ。せっかくだから日没を見たかったんだが、間に合わなかったか。残念。

「うーん、走ったな」

シートを倒して伸び伸びしたいけど後ろにはシュウがいる………ぶつけてもいいかな?寧ろ思い切りぶつけてやりたい。鬱憤をはらしたい欲求に刈られているとシュウが起き上がった。まさか企みがバレたのか、と警戒したがシュウは車から降りると助手席に座ってシートを倒した。

「…移動した理由は」

「後ろ狭い」

「広くすればいいじゃん」

「寝心地悪くなる」

確かに、後ろのシートを倒したら寝心地はよくないが、お前床でも寝れるんだから問題ないだろう。ま、シュウが助手席にいれば悩まなくてすむからいいけど。シュウのようにシートを倒してからシートベルトを外して楽になる。遠くから聞こえる波音を楽しもうと目を瞑った。ちょっと休憩をするだけのつもりが長時間の運転に意外と疲れていたようであっさりと寝入ってしまった。










不意にシュウは目を覚ました。天井の低さに違和感を感じたがすぐに車の中であることを思い出す。外は暗く、星が瞬いている。首だけ動かして運転席を見ると名前が寝ていた。シュウの方を向いているので顔がよく見える。気苦労が多いせいで普段は顰めっ面が多いが寝顔はあどけない。爆睡する姿に無防備すぎるのではないかと呆れた。だからといって、何かするつもりもないけど。

シュウは名前と向き合うように動くと再び目を閉じた。暗闇の中、珍しくイヤホンが外されているシュウの耳が拾ったのはかすかな波の音と名前の穏やかな寝息だった。





叔母長男とドライブ
(目覚めたら夜が明けていた)(寝すぎた!!)










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皆様、お忘れかと思いますが、叔母さんは運転免許持ってます。せっかく設定にあるんだから活用しました。このシリーズにおいてシュウさんはぶれないので安心します。



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