日が沈もうとしている。日中でも薄暗い森は日暮れになると殆んど光が入らない。一足先に夜が訪れたように暗い森の中を目的地に向かって歩いていると道中に何か落ちていた。見るからに人間だが驚きもしない。俺はそいつが誰かを知っているし、いつものことだから。

「おい、生きてるか」

地べたに伸びている女に話しかけると指先が僅かに動いた。更なる反応を待つと身体を起こした。乱れた髪の隙間から赤い瞳が覗く。女は弱々しく笑った。

「こんばんはスバルさん」

「こんばんはじゃねぇよ。なんだそのみっともねぇ格好は」

泥だらけの傷だらけ。さらには服の一部が破けて血が滲んでいる。あまりのみずぼらしい姿に眉根に力が入る。

クローディアと呼ばれる森に住むこの女―――名前は俺の餌であると同時に魔女と呼ばれている。魔女は実在するがこいつは違う。名前は普通の人間で、強いて言えば目の色が他のやつらにはない色をしていた。それだけの理由で魔女と呼ばれ迫害されている。バカくせぇ。魔女に危害を加えたら何らかの方法で、それこそ魔術を使って報復されるとは思わないのか。それをしないのは、出来ないのはただの人間でそんな力はないからだと、何故わからない。

「毎度毎度惨めな姿になりやがって。人間共め。俺の餌を傷物にするなんていい度胸だな」

「村の人達に手は出さないでください」

俺を見つめる赤い瞳に妙な光が宿っていだ。いつもそうだ。俺が報復しようとすればこいつは止める。何でされるがままになってるんだよ。意味わかんねぇ。腹いせに暴行されても見てるだけにしている。こいつが泣いて助けを乞うまで傍観を決め込むつもりだが、なかなか音をあげない。

「ちっ。さっさと行くぞ。俺は腹が減ってんだよ」

腕を掴んで立ち上がらせ名前を連れて歩き出す。どれほど放置されていたのか、身体は冷えきっていた。吸血鬼である俺が言うんだからよっぽどだ。服の上からでこの冷たさなのだから、肌が露出している部分などもっと冷えているのだろう。何もかもが堪に触る。

「迎えに来てくださってありがとうございます」

「おい。迎えに行ったことなんて一度もないぞ。捏造するな」

「でも、私がぼろぼろになる度にスバルさんが来てくれるので嬉しいです」

「てめぇ、わざとやられてるんじゃねぇよな」

「違いますよ」

「そうかよ」

なんかこいつといると調子が狂う。これ以上、乱されたくないので黙々と歩く。名前も黙ってついてくる。

名前は不可解な人間だ。村人からの暴行にも抵抗しない、素直に俺に血を捧げる。逃げもしなければ助けを求めもしない。どうして何もかも受け入れるのか、俺にはわからなかった。








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