愛しあっていない両親の間に生まれてきたのだから、愛されなかったのは必然だったのかもしれない。
吸血鬼である父にとって母は餌でしかなくて、気紛れに犯した末に産まれた半吸血鬼の私なんて何の価値もなかった。母にとって父は己の全てを踏み躙った憎むべき相手で、父の血が流れる私も憎しみの対象でしかなかった。本来だったら無償の愛を注いでくれる親に愛されなかった私は愛というものを渇望していた。誰でもいいから愛して欲しかった。それが叶わないなら生きてる意味なんてない。
「可哀想な名前、望んで半端者になったわけじゃないのに。辛いよね?なら僕がラクにしてあげる」
ベッドの上、馬乗りになったライトが私の首に手をかけた。少しずつ力を入れて圧迫していく。
「かはっ!!」
「僕達吸血鬼はこんなことじゃ死なないけど、名前は半端者だからきっと死ねるよ。んふ。いいねその苦しそうな顔。とーっても可愛いよ」
ライトの恍惚とした表情が霞んでいく。苦しい、苦しいが死ぬほどではない。辛うじてだけど呼吸は出来るし、それ以上首を絞めてこない。私を殺す気がないんだ。ライトにとってはお遊びなんだろうけど、私は違う。
ライトの手に自分の手を添えておもいっきり押し付けた。気管が締まり、酸素が遮断される。驚いたライトが身を引こうとするのを阻止するようさらに力を込めた。
「何をしてっ!?」
「っ、っ!!ぁ!!ライ、ト、お願、いっ」
私を殺して
吸血鬼からも人間からも爪弾きにされてこれから先、誰にも愛されずに孤独に生きるぐらいなら、私は消えてしまおう。
意識が朦朧としてきて力が抜けるとライトが手を離した。肺に送り込まれる大量の空気に噎せかえる。あんなに死にたがってたくせに身体は素直で、ぼだぼだと涙を流しながら必死に呼吸を繰り返す。私が息を整えている間、ライトは呆然としていたが、身体を倒して私の肩に額をつけると笑い声を上げた。
「あははは!!悲劇のヒロインぶって自分に陶酔してるだけで、死ぬ気なんてまったくない甘ちゃんかと思ってたのに本気だったんだ!!ふふ。絶望して死にたくなるほど誰かに愛されたかったわけ?」
一頻り笑った後、正面に移動してきた。伸びてきた指は首に触れるとするするとなで始める。
「なんか殺すのが惜しくなっちゃった。あぁ、そうだ。そんなに愛が欲しいなら僕があげる」
「ライト、が…?」
「そう。君が望むものぜぇんぶあげるからさ、だから君も…」
僕を愛して
死にかけたせいで頭がおかしくなったのか。いつものように愉し気に笑っているライトが、僕を愛して、と言った時は泣いてるように見えた。
「ライトは寂しいの…?」
「ん?僕は今最高に愉しいけど?それよりもどうするか決めなよ。どうしても死にたい、っていうなら今度はちゃんと殺してあげる。それとも僕に愛されて生きてみる?」
「ライトを愛せば…」
親ですら嫌った私を愛してくれるの…?同情なのか気紛れなのか。そもそも、ライトが私に向けるものが本当に愛であるのか、愛された記憶がない私にはわからない。それでも、ずっと欲しくてたまらなくて、でも諦めていたものを与えてくれるというならば答えは一つだ。
ライトの背中に腕を回す。愛してる、と囁けば僕も愛してる、と痛いぐらいに抱き締めてきた。それがまるで縋りつくようで、もしかしたらこの子も誰かに愛されたかったのかもしれないと、そう思った。
愛を欲しがる子供たち
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愛されたいのに愛されなくて死んじゃいたい夢主と、愛されたいけど愛されなくて諦めてしまったライトの傷の舐めあい。予想以上に暗い話しになりました。
どんなに求めたって手に入らないとわかっているのに、それでも愛してほしいと叫び続ける愚かな彼女が遠い昔においてきた『何か』を思い出させた。