家事を終えて一息ついていると学校から帰ってきたスバルが入ってきた。やるよ、と渡された物をガン見する。
「何コレ」
「見てわかんねぇのかよ」
「いや、わかるけど…」
透明なラッピング袋に入れられてるのは片手で持てる大きさのクマの人形だ。クマはハート型のクッキーを抱えている。可愛い。
「ホワイトデーだろうが」
「ホワイトデー…ああ、今日か」
ホワイトデーはバレンタインのお返しをする日だ。私はスバルにチョコをあげたのだから、スバルからお返しがあってもおかしくはないが、まさかくれるとは思っていなかった。
「忘れてたのかよ」
「だって期待してなかったし。どこで買ったのこれ」
「オススメされた雑貨屋」
「は?」
「だから、クラスの女子に訊いたらそこで買えって言われたんだよ」
クラスの女子、だと?まさかの回答に瞠目する。これをスバルが買ったのか。いや、普通に考えたらそれしかないんだけど…。
「スバル、ちょっとこれ持ってみて」
「何だよ急に…おら」
掌を差し出したのでその上に乗せる。180cm近くある男子高校生とクマの人形という組み合わせなのに不思議と違和感がない。クマの円らな瞳と、スバルの丸くなった瞳に見つめられる………あ、ダメだ。
「ぶはっ!!」
「あぁ!?」
抑えようとしたが無理だった。あの、あのスバルが!!クラスの女子に色々訊いてオススメされた雑貨屋に自ら買いに行ったのか!!スバルが可愛らしい店に入っていくとこを想像したら笑える。
「だって、お前がこれを買いに行ったとか!!ぶふっ!!」
「そうか…いらねぇのか…なら処分してやるよ!!」
「やめろー!!誰もいらないなんて言ってないしクマに罪はない!!」
窓を開けて外に放り投げようとしたので寸前のところで取り上げる。歯を剥き出しにして怒ってるけどまったく恐くない。むしろその逆だ。
「ちょっとこっちにおいで」
「今度は何する気だ」
「いいから早く」
「変なことしたらぶっ飛ばすからな」
物騒なことを言いつつも近寄ってくるスバルは変なところで素直だ。目の前に来たところで腕を掴み、ソファーに座らせる。ワシャワシャ、といつもより低い位置にある頭を両手でなで回す。
「なっ!!バカ、やめろ!!」
「スバルースバルー。お前は本当、いい子だ」
スバルに腕を掴まれそうになるが、そこは上手く躱す。嬉しくて止まらない。三つ子なんて絶対お返しくれないぞ。くれたとしてもろくでもないだろうし。それに比べてスバルはちゃんと考えて買ってくれたんだな。雑貨屋なんて女の子が好きなそうなファンシーな外装だった違いない。そんな店に男が一人で入るなんてどれほど恥ずかしかったか。
「三つ子や長男次男はお前を見習うべきだな」
「〜〜〜ガキ扱いしてんじゃねぇ!!」
「おっと」
無理矢理立ち上がると背中を向けた。しまった、ヘソを曲げたか。こうなると面倒くさくて案の定、呼んでも無視される。仕方ない、怒りが収まるまでほっとくか。
手持ち無沙汰になったので改めて人形を眺める。クリーム色の毛はフワフワしてて頬擦りしたくなる。でも、このラッピング自体が可愛いから出してしまうのは勿体ない。このまま飾っておこうかな。ああ、どうしよう。困った。
ふと気づくとスバルが横目で、まるで様子を窺うようにこちらを見ていた。
「どうした?」
「気に入ったかよ」
「え?普通に嬉しいけど…何で?」
「お前は!!あんまり物に頓着しねぇし、好みとかも知らねぇからこんなガキが好きそうなもんでいいのかわかんなかったんだよ!!かといってそんな金もってねぇから装飾品は買えねぇし…」
不安そうに言葉が尻窄みになっていく。まぁ、そうだよな。女の子にプレゼントなんてしたことないだろうし、年上となれば余計に悩んだだろう。
「元々装飾品は興味ないから、人形のほうがいいや。何より、私はスバルの気持ちが嬉しいんだよ」
「気持ち?」
「そう。これを贈ってくれたスバルの気持ち」
魔王の娘という立場上いろんな物を貰った。それこそ高級な物や珍しい物を沢山。ただ、それは気に入られようとするためのご機嫌どりであって、見返りを求めていた。けど、スバルがくれた人形には何の下心もない。私のことを考えて選んでくれたのが言葉や態度から感じ取れたから、それが何よりも嬉しかった。
「俺の気持ちって…よくわかんねぇ」
「ふふ。喜んでいるってわかればいい。大切にするから」
「ばっかじゃねぇの。そんなに喜びやがって」
「本当に嬉しいからね」
「…そんなもんでいいならいつでもやるよ」
「ん?何か言ったか?」
「何でもねぇ!!」
叔母と末っ子とホワイトデー
(ありがとね)(…ふん)
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バレンタイン書いたならホワイトデーも、ってことで。きっとスバル君は、何やればいいんだ!!とものすごく悩んだでしょうね。