「信じられません。チョコないってどういうことですか。今日がなんの日かわかってるんですか?わかってるならない、なんて言えませんよね。それとも最初から作る気なんてなかったんでしょうか。それなら納得出来ます。ふふ…期待させといてくれないなんて酷い…」

正面から首に腕を回して抱きついてきたカナトが耳元で呪詛を呟く。そのせいなのか、周りの空気は澱み、身体は固まって動かない。正直恐い。アヤトとライトは背中に張り付いて私を盾代わりにしている。

「ヤベェんじゃねぇの?」

「カナト君ってば完全にトランス状態だね」

そう思うなら助けて。徐々に腕に力がこめられてきているので気道が圧迫される。勢い余って絞め殺されるんじゃなかろうか。

「チョコレート、楽しみに、してたんですよっ!!」

終いには怒りながら泣きだした。至近距離で金切り声を出されて耳が痛いが耐える。カナトは私を責めるが私に落ち度はない。チョコはちゃんと用意してたんだよ。全てはスバルが悪いんだ。



「スバルーチョコ出来たぞ」

「おう。紅茶もくれ」

「はいはい。あ、好きなだけ食べていいけど、三つ子の分だけは残しといて、って!!」

「(モグモグ)」

「お前、あんだけあったチョコの大半を食べるとか、そんなにお腹減ってたの!?三つ子の分がないじゃないか…言った側から食べるな!!」




その後、帰ってきた三つ子…というよりカナトはチョコが食べられたと知るや怒り狂い、そんなカナトに対してスバルは挑発し、兄弟喧嘩が始まりそうになったので二人を引き離し、スバルは部屋へに戻した。今はカナトを宥めようとしているのだが上手くいかない。大体、たかだがチョコごときでどうしてこうなるんだ。チョコなんて山程貰ってるじゃないか。ちらっ、と見遣った先には紙袋から溢れだしそうになっているチョコが。使い魔がせっせと運んでいるので数は増える一方だ。どうしてこんな性格がねじ曲がってるやつらがモテるんだ。顔か、顔がいいからか?

「食べられてしまったのは私の過失だけど、あれだけチョコがあるなら充分だろう」

「知らない人間から貰った何が入ってるかもわからないような物はむやみやたらに食べるもんじゃありません。しっかり見極めてから食べないと酷い目に遭いますよ…」

「女っておっかねぇよな」

「さすがの僕もあれには焦ったね」

三人揃って虚ろな瞳になる。何されたのお前達。

「あー…知らない人から貰ったものを食べる時は気をつけたほうがいいぞ」

「叔母さんから貰ったものなら大丈夫ですよね」

「そうだけど!!」

「僕は叔母さんとの約束を守ったのに叔母さんは破るの?」

痛いとこをつかれる。チョコが欲しいなら今日1日いい子にしてなさい、と約束はしていた。聞いた話しでは授業もサボらず、真面目に過ごしていたらしい。カナトは約束を守ったのに私が破ったとあっては決まりが悪い。

「わかったよ。今から材料用意してまた作る。スバルにやったやつより凝ったのをあげるし、チョコ以外のおかしも作ってあげる。それでいいだろう」

「それだけじゃ足りません」

「なら、どうすればいいのさ」

「アヤトやライトのより立派で特別なチョコをください」

なんか、スバルも似たようなこと言ってたな。そんなことでいいのならお安いご用だ。

「仰せのままにいたします」

「それならいいです。許してあげます」

頭を撫でてやるところっと機嫌を直した。これで一件落着、と思ったら今度は後ろの二人が騒ぎだした。

「カナトばっかズルいんだよ!!たこ焼き作れ、たこ焼き!!」

「僕はマカロンが食べたいなー」



もはやバレンタイン関係ない。





×叔母とバレンタイン
(今から全部作るのか…)









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まだ続いてましたバレンタイン。



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