食欲を刺激するような匂いが漂う。湯気が上り、ぐつぐつと煮え始めたので火を弱めてよくかき混ぜる。円を描くようにお玉を動かすと丸ごと入った野菜達が回転する。鍋番を任されてからすでに数十分経っている。料理は嫌いではないので苦痛ではない。

「そちらの出来はどうですか」

「上々。もう少し煮こんだほうがいいだろうね」

「貴方に任せます」

レイジが隣でメインディッシュの仕込みをしている。今日の晩餐は私とレイジの合作である。そろそろスープの味付けをしますか。必要な物を鍋に入れてよく混ぜる。

「レイジ」

レイジに向かってスプーンを差し出すと素直に口を開けたので流し込む。ゴクリッ、と喉仏が上下に動く。

「もう少し味が濃いほうがいいのでは?」

「やっぱり?私も少し薄いかなって思ったんだよね」

「そう思うならすぐに味を直してください」

「わかったよ」

塩と胡椒、ローリエの葉っぱを足して混ぜる。味見をするとちょうどいい味加減になった。あとは煮込むだけだから、ちょっとぐらいほっといても問題はない。エプロンを脱いで椅子にかける。

「今のうちにダイニングの準備してくる」

「わかりました」

必要な物を人数分、ワゴンに乗せて隣室のダイニングへ移動すると、シュウがテーブルに突っ伏していた。気にせず準備をしているとシュウが起き上がった。

「レアステーキ食いたい」

「今日のメインはローストビーフだった」

「はぁ?」 

「はぁ?とか言われてもどうしようもないだろう」

「俺はレアのステーキが食べたいんだけど」

シュウの前にフルコースに使う数種類のフォークとナイフ、スプーンを並べていると手首を掴まれた。引き剥がそうとしたらそちらも捕まってしまい、両手を拘束された。これじゃ何も出来ないんだけど。

「次回の晩餐でレアステーキにするよう頼んであげるから」

「………」

「わかったわかった。シュウが食べたい時に私が作ってあげる」

「………ならいい」

「まったく。めんどくさいな」

指先は動かせるのですぐ近くにあるほっぺを摘まんでみる。思いの外柔らかくて触り心地が良い。楽しくなってむにむにしていると、シュウは私の手を高く持ち上げてからテーブルに叩きつけた。食器類が跳ねてバラバラに着地する。せっかく並べたのに。

「いたっ!!」

「気安く触るな」

「最初に触ったのはお前だろう!!」

「名前!!」

音を聞きつけたらしいレイジが入って来た。私の影になって隠れていたシュウを見つけると眉間の皺が増える。

「ここは食事をとる場所であってお前の昼寝部屋ではありません。立ち去りなさい。名前、穀潰しに構っている暇があるならさっさと終わらせてしまいなさい」

「レイジ…そんなに怒らなくても…」

「うるさいのが来た」

「聞こえていますよ穀潰し!!」

レイジが二、三言言うとシュウは一言返す。そんな応酬を座っているシュウと立っているレイジの間で聞いていた。すごく居心地が悪い。この二人は下の子らの喧嘩と違って空気がギスギスするので息が詰まりそうだ。本気で互いを嫌っているせいだろう。

「人を挟んで喧嘩をするな」

どうせ言ってもきかないんだから強行手段に出る。掌で二人の口を塞いでやめさせた。シュウとレイジは目をぱちくりさせている。

「長男と次男の仲が悪いから下の子らも真似するんだよ。お前達は自分が兄であることを自覚して模範となる行動をとりなさい」

いいね、と念を押してから手を離すと睨まれる。シュウもレイジも何か言いたそうだ。

「…何」

「年上ぶんなよ」

「貴方に説教をされるなんて屈辱的です」

「お前達より年上だし、説教も出来る立場なんだけど!!」

そんなもん知るか、とばかりにそっぽを向かれたので腹が立つ。三つ子も末っ子も生意気だが、長男次男は輪にかけて可愛げがない。お前達、そういうところはそっくりだな!!





叔母長男次男
(可愛くない!!!)









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長男と次男は三つ子や末っ子と違って頭がいい分、扱い辛いようです。



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